2016 Fiscal Year Research-status Report
銀行ローンにおける財務制限条項と利益調整に関する研究
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26780249
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
稲村 由美 新潟大学, 人文社会・教育科学系, 准教授 (80583757)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 負債契約 / 会計情報 / 裁量行動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、企業が社債を発行する、あるいは銀行から借入を行う際に債権者との間で結ぶ契約(以下、負債契約)において、会計数値の表す情報が果たしている役割を実証研究において明らかにすることである。より具体的には、以下の2つの点に焦点を当てる。(1)銀行ローン契約における会計数値の利用度、(2)負債契約における会計情報の利用は、経営者に利益を調整する動機を与えるか否か。これらの点を明らかにすることは、これまで我が国の実証会計学の分野で十分に取り扱われてこなかった負債契約における会計情報の有用性を検証できるだけでなく、監査の視点からも役立つ情報を提供できるものと考えられる。 平成26年度には、上記(1)についての調査を終了した。具体的には、2004年から2008年までの間に有価証券報告書で開示される銀行ローンの負債契約について、会計情報の利用度だけでなく、財務制限条項において約定される会計数値の制限値を調査した。その結果、デフォルト・リスクの高い借り手企業に対して、厳しい制限値が設けられていることが分かった。さらに、上記(2)に関連する研究として、財務制限条項において厳しい制限値が設定されている企業の業績推移を検証した結果、負債契約後に業績が改善することが明らかになった。その理由としては、債権者からのモニタリングが強く働くためと考えられるが、業績改善が経営者の利益増加型の利益調整によるものである可能性も否めない。そのため、平成27年度には、さらに分析を進め、そのような企業の経営者が実際に利益調整を行っているのかを検証した。その結果、業績悪化により債権者のモニタリングが強く働いている企業ほど、経営者が利益減少型の利益調整を行っていることがわかった。 平成28年度は出産・育児のため、研究を中断せざるを得なかったが、今後は、利益減少型の裁量行動を行う経営者の動機についてさらなる分析および考察を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、負債契約において会計情報がどのように利用され、そのことが経営者行動にどのような影響を与えるのかを明らかにすることである。より具体的には、(1)銀行ローン契約における会計数値の利用度、(2)負債契約における会計情報の利用は、経営者に利益を調整する動機を与えるか否か、この2点に焦点を当てる。 研究期間は当初3年間(平成26年度~平成28年度)を予定しており、以下の3つの手順で進める予定であった。すなわち、①資料収集およびデータベースの構築、②銀行ローン契約内容の分析と負債仮説の成立条件の検討、③負債契約と利益調整に関する実証分析である。 このうち平成27年度までに手順①および②については概ね終了し、銀行ローンの契約に関するデータを調査・分析することにより、会計情報の具体的な利用度や制限値の設定傾向を明らかにすることができた。また、負債仮説の成立条件を検討する事前研究を行い、財務制限条項に厳しい制限値が設けられている企業ほど、ローン契約後に業績が改善することを明らかにした。 また、同年度までに手順③にも着手しており、契約後の業績改善の理由として債権者によるモニタリングに注目し、経営者行動との関係を分析した。その結果、契約後に業績が改善した企業では、経営者による利益減少型の裁量行動が観察されることがわかった。したがって、本研究の目的に照らした場合、現在までに、上記(1)の検討は概ね終了し、上記(2)についても着手できている状況である。 平成28年度には、出産・育児のため研究を中断せざるを得ず、研究期間の延長を申請したが、その期間を除けば、研究は概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、負債契約において会計情報がどのように利用され、そのことが経営者行動にどのような影響を与えるのかを明らかにすることである。より具体的には、(1)銀行ローン契約における会計数値の利用度、(2)負債契約における会計情報の利用は、経営者に利益を調整する動機を与えるか否か、この2点に焦点を当てる。 現在までのところ、手順①および②については概ね終了し、研究目的に照らした場合には(1)の検討が終了している。また、手順③にも着手しており、研究目的の(2)についても考察を進めている状況である。 今後は、研究目的(2)を念頭に、手順③「負債契約と利益調整に関する実証分析」を重点的に進めていきたい。現在までの分析では、業績が悪化し、財務制限条項違反に近づいている企業の経営者ほど利益減少型の裁量行動を行うという結果が得られている。本研究では、その理由として債権者による厳しいモニタリングに注目しており、経営者は積極的に経営改善に取り組んでいることを債権者にアピールするために、このような行動を行うのではないかと推察している。しかしながら、これに関しては、まだ十分な検討を行うことができていないため、今後は、この点に注目して分析を進めたい。具体的には、経営者による利益減少型の裁量行動が観察された企業においては、会計的な裁量行動以外にも、経営改善に取り組んでいることを示す他の経営者行動(リストラクチャリングなど)が行われているのかを、さらに調査・分析していく予定である。
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Causes of Carryover |
平成28年度は、出産・育児のため産休および育休を取得しており、実質的な研究活動を行うことができなかったため、次年度使用額が生じている。これに関しては平成28年12月に補助事業期間延長が認められている次第である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初、平成28年度に使用予定であったものを、平成29年度に使用することとしたい。具体的には、物品費および旅費とする予定である。
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Research Products
(3 results)