2015 Fiscal Year Research-status Report
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26780268
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Research Institution | Otaru University of Commerce |
Principal Investigator |
佐藤 雅浩 小樽商科大学, 商学部, 准教授 (50708328)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 精神疾患 / 流行 / うつ病 / 精神医学 / 精神医療 / 医療社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究2年目にあたる本年度は、昨年度までの資料調査の結果を踏まえた学会報告をおこなうとともに、精神疾患の流行に寄与する重要なアクターの1つであると考えられる精神医療ユーザー(精神科医療に患者として関与したことがある人物)を主たる対象とした社会調査を実施した。具体的には、(a)「うつ」で通入院経験のある全国20~69歳の男女を対象に、インターネットを用いた予備的な質問紙調査を先行しておこない、500名のインフォーマント(男性211名、女性289名)から通入院の状況や病気に関する情報の取得方法について回答を得た。また、当該予備調査の結果を踏まえた上で、(b)同様に「うつ」で通入院経験のある関東在住の10名のインフォーマントを対象に、2015年9月にそれぞれ1時間程度の半構造化面接調査を実施した。その結果、(a)の調査からは、多くの回答者が「うつ」以外にも複数の精神科における診断を受けており、各種の抗うつ薬を服用した経験を有すること、また医療機関を受診する前後の時期に、各種のメディアを通じて、自ら積極的に病気の情報を収集していたこと、男女別にみた場合には、女性のほうが多くの医療機関を受診している一方で、治療において専門家への信頼度が低いことなどが明らかになった。また(b)の面接調査からは、それぞれのインフォーマントが自らを病気であると自認するに至った具体的な経緯や、自分の症状を理解するための精神医学的知識を習得する際に活用したメディアやその方法、病気の経験が自らのライフイベントに与えた影響等が明らかになった。なお、これら本年度の調査から得られた研究結果は、2016年3月に開催された心理学化・医療化研究会において報告をおこない、次年度以降の調査へむけて参加者から有益なコメントを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で既述したように、本年度はこれまでの研究で明らかになった現代社会における精神疾患の流行(とくに「うつ」の流行)の特性を学界で報告し、関連する研究者から有益な示唆を得ることができた。また、当該の現象を牽引するアクターの1つである精神医療ユーザーに対する実証的な社会調査を実施することができた。その結果、これまで国内の社会学的な研究においては未解明であった精神疾患の流行という現象に関して、研究成果の公開と新たなデータの蓄積・分析をおこなうことができた。これらの実績は、おおむね当該研究の申請段階から予定していたスケジュールに沿ったものであり、その意味で研究は順調に進展していると言うことができる。その一方で、本年度に得られた調査票調査やインタビュー調査データの分析に関しては、基礎的な分析がおわった段階であるため、次年度以降は新たなインフォーマントを対象とした調査を実施しつつ、本年度に得られたデータのさらなる分析と発表の機会を設けることが必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
当課題の申請時に申告したとおり、研究の2~3年目は精神疾患の流行に関与する諸アクターに対する実証的な調査を実施し、当該調査によって得られたデータを分析する年次にあたる。よって次年度は、本年度の調査によって得られた精神医療ユーザーに対する定性的・定量的データの分析を深化させるとともに、その他のアクター(医療専門家等)に対する新たな調査を実施し、精神疾患の流行に関する総体的な構造の解明を企図していく予定である。またこれらの調査から得られたデータが、研究開始前に想定していた理論的な枠組み(I. Hackingのlooping effect概念)に合致しているのか否か、合致しない場合には、精神疾患の流行に関してどのような新しい分析枠組みを構築することができるのかについても理論的な検討をおこなう。これらの作業から得られた研究成果については、次年度以降、論文もしくはインターネット上のリソースとして順次一般に公開していく予定である。
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Research Products
(2 results)