2015 Fiscal Year Research-status Report
自由を支える社会関係的資源:ネットワークの形成と利用可能性
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26780276
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
内藤 準 首都大学東京, 人文科学研究科(研究院), 助教 (00571241)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 社会的ネットワーク / 社会階層 / 社会関係的資源 / ソーシャル・サポート / 自由 / 責任 / 資源分配 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は,責任ある自由な行為者として人びとが生活する条件としての,社会的資源および社会関係的資源(サポートネットワーク)の効果を明らかにすること,そしてその社会的メカニズムを探ることである.平成27年度は主に以下の研究成果を発表した. 1.全国調査プロジェクトにおいて提案し採択された「主観的自由」項目を用いて,さまざまな社会的資源および社会関係的資源が個人の自由に与える効果の基礎的分析をおこなった.主な結果を以下に示す.(1)本人収入・教育年数・健康という個人的資源はその持ち主が「自分の生き方は自分で自由に決めている」と回答しやすい環境をもたらす.だが,世帯収入のような本人以外の資源は自由を高める効果をもたない.(2)自律的で意思決定権のある職業的地位は自由にプラスの効果をもちうる.(3)サポートネットワークの大きさは自由を高める効果をもつ.だが,配偶者・子ども・世帯人数などの家族要因は自由への制約として働きうる. 2.社会関係的資源と個人の自由との関係について,上記の全国調査データに加えて独自の自治体調査データを分析し,その社会的な階層性とメカニズムを明らかにした.(1)サポートネットワークの大きさが持ち主の自由を高める上記の効果には,本人収入との交互作用があること,すなわち,低収入階層の人びとの場合,サポートネットワークが自由を高める効果が大幅に減少してしまうことを明らかにした.(2)そこでさらにそのメカニズムを解明するため,自治体調査データを用いた分析をおこなった.その結果,サポートネットワークにおける人びとの援助行為が,相手への利他性に基づく贈与ではなく,相手との相互性(互酬性)に基づく交換であることが分かった.ここからは,経済的資源が少ない低階層の人びとは交換関係に参加しづらいため,社会関係的資源を実際に利用することが難しくなるというメカニズムがあることが示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は,人びとの社会関係的資源の保有とその利用可能性とを区別し,資源の社会的分配と利用可能性それぞれの規定要因を探ったうえで,メカニズムについて理論化することを目的としている.現代社会は自由主義的制度を規範的な基礎とし,そのメンバーを「責任ある自由な行為者」として想定する.しかし,社会経済的資源の分配における貧困や格差は,人びとの自由の程度の不平等をもたらし、自らの責任において自由に生活を営むことが困難な人びとも生じうる.その「責任ある自由な行為者」たる社会の成員に必要な資源の一つとして,社会関係的資源を考えることができる.逆に社会関係的資源を欠く人びとは,もはや自らの自由な選択によって活動するのが困難な「社会的排除」の状態にあるとされうる. だが,こうした社会関係的資源と自由との関係については,とくに社会調査データに基づく分析によって実証的に確認する必要がある.そこで本研究課題においては,(1)社会関係的資源の分配と自由との関連について経験的データから明らかにすること, (2)その関連を規定するメカニズムはいかなるものなのかを明らかにすることが重要になる. 平成27年度はこの本研究課題の中心テーマに関して,独自調査によるパーソナル・ネットワークのデータと,全国調査プロジェクトのデータを用いて分析をおこない,一定の成果を上げたうえで,その成果の学会報告をおこなった(成果の詳細については「研究実績の概要」を参照されたい).現在はこの成果に基づき,さらに残された課題の検討をおこなっているところである.この検討によって,あらたな調査に盛り込むべき調査項目などの絞り込みとブラッシュアップをおこない,今後平成28年度から29年度に計画している新規の社会調査において活かすことができる. 以上より,本研究課題はこれまでのところおおむね順調に推移していると判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度までの研究はおおむね順調であり,以後も計画に基づいて研究を推進する.ただし研究代表者は平成28年4月に所属研究機関を異動し,研究環境が変化することになった.それにともない,平成28年度に計画と実施を予定していた新たな調査について,調査時期の変更や,調査予定地の変更等も含めた見直しをおこない,ベストな研究成果を出せるようにする必要がある. 平成28年度は,平成27年度までの研究成果に基づいて,新たな調査に盛り込むべき調査項目の選定を進める.とくに平成27年度に明らかにした研究成果については,より分析を進めたうえで,研究論文として投稿する.そのために,これまでに続き理論面での研究もより強化する必要がある.これは新たな理論的検討という時間を要する作業になるが,成功すれば研究分野全体にとっても大きな成果となり,理論的な仮説構築に基づく新たな調査項目の設計も視野に入れることができるようになる. 平成29年度の前半にあらたな社会調査を計画・実施する.調査地や標本サイズなどは,研究代表者の前回調査に準ずるが,以下の点に留意する.(1)前回調査では柔軟な運用が難しい補助金であったため,年度の変わり目という被調査者の移動の多い時期に実施せざるを得なかった.これを6月~9月の比較的安定した時期におこなうことにする.(2)標本サイズは前回に準ずる3000を計画する.ただし,研究代表者の所属機関の変更があったことから,調査地の変更や拡充の可能性を検討する.(3)調査票の作成にあたっては前回調査との継続性に留意しつつ,とくに「社会規範」および「協力行動」に関する調査項目について理論的検討を踏まえた新たな項目を導入することを目指す.(4)ネットワーク関連項目については,前回調査の経験を踏まえ改善をおこなう.平成28年度はこうした準備作業を中心とするが,成果については随時論文として発表する.
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Causes of Carryover |
本研究では,自治体住民に対する社会調査の実施を計画している.そのベストな方法として社会調査会社に委託するか,すべて自前でおこなうか,中間的に印刷会社のサービスを利用するかなどを検討中である.だがいずれにせよ,研究費のうちできるだけ多くをこの調査の実施にあてる必要がある.また,社会調査は失敗が許されない上に,標本抽出時期に選挙が実施されるなどの突発的事態もありうるため,その費用にはさらにある程度の余裕を持たせておく必要がある. そこで,とくに既存データの分析を中心におこなった平成27年度は,本研究課題の研究費からの支出を必要最小限にし,次年度以降に温存するよう努めた.次年度使用額が生じたのはそのためであり,平成27年度分は平成28年度から29年度にかけて支出する計画である.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本研究では,とくに平成28年度から29年度にかけて計画している社会調査をより良いものとするため,可能な限り多くの資源を投入する必要がある.現在見込んでいる使用の内訳として,まず上記の調査には直接関係しない費用として,平成29年度にかけて,研究資料の購入費用15万円,消耗品(PCソフトなど)10万円,学会報告のための旅費10万円とする. 社会調査に直接関係する費用として,平成29年度の調査実施時点までに使用する費用の見込みは以下の通りである.研究補助(標本抽出やデータ入力など)および謝礼の費用として66万円,調査票や同封文書,封筒などの印刷費用37万円,郵送調査を計画しているためその費用として95万円程度を少なくとも必要とする(前回調査の費用をもとに概算).以上の金額には,平成27年度の次年度使用額も含んでおり,研究機関の異動にも柔軟に対応しながら,計画に基づいて支出をおこなう予定である.
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