2016 Fiscal Year Research-status Report
監視社会化の過程のモデル化を通した社会問題の定義的アプローチの再検討
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26780278
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Research Institution | Kyoto Prefectural University |
Principal Investigator |
朝田 佳尚 京都府立大学, 公共政策学部, 准教授 (60642113)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 社会問題 / 監視社会論 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の計画の遂行によって得られた成果は4つある。 まず、公式統計の分析については、昨年度の成果をふまえて整理を行った。とくに関連する防犯機器や言説の変化に注意を払い、新しい年次の部分も含めて経年的な変化を含めて検討した。その成果の一部については本務校の雑誌に掲載して公表することができた。手法については、研究計画の開始後に検討した多数の手法のうち、今年度は主に批判的実在論を取り上げて関連する研究の読解を進めた。批判的実在論はメタ理論的な基盤を定めつつ、社会学の多様な方法を目的に合わせて多元的に使用しようとする点で、本研究計画の重要な手がかりになる可能性がある。監視社会論・排除社会論についても継続して整理を進めた。今年度はとくに既存の研究が社会の変化と同質的な個人からなるモデルを採用しており、本研究が進める多元的なアクターによって形成される社会の質的変容のモデルと異なることを明確にした。この論点については、来年度の公表を目指して、現在論文として執筆を進めている。また、昨年度からの継続課題であった、海外動向の把握については、ISAの参加によって達成した。社会問題に関連するRCでは、現在も構築主義や制度的エスノグラフィーを充実させる努力が続けられていたが、同時にいくつかの方法論を混成させることも検討されており、本計画にとって重要な示唆となった。 以上の成果は本研究計画にとって重要な一部をなしている。本研究計画は、近年の監視社会化を手がかりに、現代の日本社会の変化を理解することであるが、公式統計の分析および監視社会論・排除社会論の研究は、社会的変化の動向の把握とそうした変化の内実に迫るための重要な素材となった。また、もうひとつは、社会問題の定義的アプローチを再考することであるが、批判的実在論の読解およびISAの参加は、最新動向の整理と新たな手法の利点の検証に必須の作業であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は当初の研究計画をおおむね踏まえた内容を達成できた。今年度は、研究計画のうち、公式統計の分析、批判的実在論の検討、監視社会論・排除社会論の再検討、海外の動向把握を進めた。これにより、研究計画の2つの柱である現代社会理解と社会問題に関する研究の新たな手法の探索をどちらも進展させることができた。公式統計の分析については監視機器の増加がいかに現代社会において成立しえたかを具体的な数値の変化から確認することができ、社会の質的な変化の屈折点を検討することができた。批判的実在論に関しては新たな手法の検討にとって重要な手がかりになると考えられる。監視社会論・排除社会論の再検討については、やはり現代社会論にとって重要な作業であった。これらの既存研究の再検討によって、本研究のデータの独自性が明らかになり、研究をまとめる方向性についても見定めることができた。最後に、海外の動向把握に関しても、他国における現代社会論の取り扱い方、社会問題に関する研究の分析パターンを確認するための重要な作業だった。これらはいずれも当初の計画の遂行を遵守するものだった。 ただし、計画の一部には未遂行のものもある。当初の計画では海外の動向把握の一環として監視社会論の専門的な機関における活動を予定していたが、これは今年度内には実施できなかった。とはいえ、こうした作業については、国際学会における当該分野の研究動向を把握したことで相当程度満たされており、次年度以降の研究計画に遅れが生じる恐れはない。一方で、本研究計画の最終年度に達成する予定だった研究内容の公表に関しては、今年度中に下準備と交渉が進んでおり、この点に関しては研究計画の進行が早まったと言える。 このように、一部には課題も残ったが、それでも大半の計画は進展しており、今年度の計画の遂行はおおよそ順調だったと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度についても、研究計画の着実な遂行を目指す。とくに来年度は研究計画の達成年度であることもあり、これまでの成果の整理とその成果の公表を目指す。 まずは資料分析だが、こちらは過年度の作業をふまえて、監視機器の時系列的な分析を整理し、言説の変化を明確にする。これにより、現代社会における監視機器の受容がどの時期にどのような論理をもってなのかを把握する。同時に、こうした資料分析の成果をこれまでの社会の質的変容に関する理論的な分析と照らし合わせ、公表する論文などにおける枠組みの骨子とする。また、これらの現代社会論の成果を手法に関する成果と結び合わせる。監視社会論については社会の質的変容と個人の行動・意識の変化という古典的な枠組みが暗黙裡に提示されてきたが、それとは異なるモデルを提示し、同時にその分析の手法についてもひとつの方向性を示す。 最後に、後期には以上の成果を公表するために論文や著書を執筆する作業に入る。これまでの成果を総合したものを再構成し、それがまとまり次第、論文を公表するとともに、それらを総合した出版物の刊行を目指す。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じたのは、27年度に予定していた海外学会活動を計画の妥当性に照らし合わせて次年度持ち越しにした結果、28年度計画の実施項目が増えたためである。持ち越した活動についてはその前後において関連する作業が必要となり、またその活動で得られた成果を整理することにも一定の期間が必要となる。そのために、当初は28年度に予定していた作業の一部を29年度に実施することが妥当だと判断した。もちろん、作業の持ち越しに関しては、作業の内容と必要時間を考慮し、29年度の計画の達成を困難にしないようなものを選択しており、むしろ結果的にはこうした分割をすることで効率を高められると考えている。このように、次年度使用額については、持ち越した作業の遂行と精密化にあてることを予定しており、研究計画全体の進行をさまたげることはない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は研究計画の総まとめにあたることから、使用についても研究計画の完成に重点を置く予定である。具体的には、28年度の作業であった公式統計の分析、批判的実在論の検討、監視社会論・排除社会論の整理における未達成部分の遂行および精密化を目指す。これらのうち29年度での取り組みにした部分を年度の冒頭に集中して取り組む予定である。また、それ以後の期間に関しては、前年度までの成果に関しても、不足している論点の補強や追加調査も実施する。この中の一環として、必要ならば監視社会論の専門機関における研究活動も実施する。以上の作業を基盤に、論文および著書の執筆・刊行に向けた作業も充実させる。
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Research Products
(1 results)