2014 Fiscal Year Research-status Report
在外台湾系元日本兵における台湾アイデンティティの形成と変容に関する国際比較研究
Project/Area Number |
26780290
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
八尾 祥平 早稲田大学, アジア研究機構, 助手 (90630731)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 台湾 / 日本 / インドネシア / アイデンティティ / 台湾系元日本兵 |
Outline of Annual Research Achievements |
1.研究の目的 台湾研究では台湾アイデンティティ形成のきっかけは228事件にあることが定説となっている。ただし、これはあくまでも戦後の台湾の内部の人びとについての「定説」に過ぎず、本研究では、台湾系華僑華人にとってはどの程度あてはまる学説であるのかを再検証する。本研究では、現在日本とインドネシアに在住する台湾系元日本兵に対象を絞り、彼らの生活史から台湾アイデンティティの形成と変容を、戦後の東アジア・東南アジアの社会変動の影響と結びつけて解明する。 2.研究内容 理論面:社会学・地理学・歴史学の文献を用いて俯瞰的な認識を得ると同時に分析フレームの構築を行うことを目指した。具体的には、社会学からは、在外台湾系元日本兵について地域ごとのバリエーションを構築するために移民研究の最新の知見(Massey D.S. et al.,2005; Portes 2010など)。地理学からは、社会的プロセスと空間的プロセスの連関および歴史性と地域性を視野に入れた理論モデル構築についての知見を得た(Massey D.B. 1995など)。 実証面:本年度は、日本在住の台湾系元日本兵のライフヒストリーを中心とする聞き取り調査を行った。聞き取り内容は、とりわけ、教育歴・軍歴・職歴など、主に30代の頃を中心とするライフヒストリーを語っていただいた。聞き取りによって、日本への留学・軍隊への志願・敗戦後のソビエト連邦による抑留経験など、これまで十分には明らかにされてこなかった台湾系元日本兵の実態の一端を明らかにする貴重な証言を得ることができた。さらに、戦後に中国大陸や台湾へ渡るのではなく日本に残ることになった経緯、日華断交時の周囲の状況、2000年代以降の日本社会の変化についても証言を得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
まず、日本における台湾系元日本兵への聞き取り調査は予定通りに実施することができた。家族歴・教育歴・軍歴・職歴のみならず、本人がこれまでに台湾系の団体宛に寄稿した文書や講演会のDVDなども入手することができ、この点では予定よりも順調に資料を集めることができたと言える。 その一方で、インドネシアにおける台湾系元日本兵への聞き取り調査は、聞き取り調査対象者が高齢のため逝去してしまい、実施することができなくなってしまった。研究計画では当初からこうした事態に備え、調査対象者が生前に残したインタビューや新聞記事などを収集し分析を行うことで本人への直接の聞き取り調査にかえる予定としていた。次年度はこの方針に従って資料収集と分析を進めていく。
|
Strategy for Future Research Activity |
1.日本・インドネシアでの聞き取り調査:引き続き調査対象者への聞き取り調査を継続する。日本では、本人と日本社会との関わりがどのように生じていったのか、他のナショナルマイノリティとの関わりの有無について聞き取りしたい。一方で、インドネシアでは生前の調査対象者を知る関係者を中心とする聞き取り調査を行う予定。 2.台湾における調査:公文書や新聞記事の収集を通して、台湾における在外台湾系元日本兵の位置づけが時代によりどのような変化を遂げるのかを分析したい。とりわけ、台湾の民主化が日本とインドネシアにおける台湾系元日本兵たちに与えた影響を、上述の聞き取り調査による結果と合わせて比較分析したい。
|
Causes of Carryover |
インドネシアにおける聞き取り調査対象者が逝去したことで今年度予定していた調査は中止せざるを得なくなり、調査の再調整を行う必要があったため。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度繰り越した研究費については次年度にインドネシアでの関係者への聞き取り調査や資料収集のために用いることで、今年度には行えなかった調査にかえる予定。
|