2015 Fiscal Year Research-status Report
私有地における共同性顕在化のメカニズム―被災農村と一般農村の耕作地管理の比較研究
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26780294
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Research Institution | Osaka Sangyo University |
Principal Investigator |
川田 美紀 大阪産業大学, 人間環境学部, 准教授 (40548236)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 農地管理 / 耕作請負 / コミュニティ / 労働 / サブシステンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、2つの事例地でのフィールドワークを実施している。その1つである、滋賀県野洲市の農村集落では、住民の農地に対する考え方や、地域の農業組合活動についての聞き取り調査を実施した。当該集落は、もともと農家の割合が多い地域であったが、徐々に農家数が減少していき、平成27年度には集落全体のうち3割程度にまで減少している。農家数が減少しているおもな理由としては、次の世代が農業を継がないということが挙げられるが、それによって耕作することが不可能になった農地の多くは、同じ集落の別の農家が耕作請負をしている。これは、“地域の農地は地域で守る”という農地に対する共通認識と、それを可能にする耕作請負システムによって実現していると思われる。そして、これら2点に大きく関わっているのが、地域の農業組合である。地域の農業組合は、農作業の機械化が始まった当初から、“地域の農地は地域で守る”ということをスローガンに掲げ、農作業機械の共同利用管理、農地や水路などのメンテナンスなど、さまざまな活動をおこなってきた。それらの活動の積み重ねがあったからこそ、高齢を理由に農業を続けられず、後継者がいない(まだ決まらない)農業者は、農業組合と協力して農地を維持することを選び、また、請け負う側の農業者も耕作を引き受けているのだと考えられた。もう1つの事例地である福島県の集落では、原発事故以降、まだ帰村が実現していない。そこで、27年度は原発事故から現在に至るまでの地域コミュニティ、家族、土地などの状況について聞き取り調査をさせてもらった。28年度は、今後の農地の維持管理や帰村後の地域コミュニティの課題などの聞き取り調査を予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2つの事例調査のうち、滋賀県での調査のほうは、本研究課題の研究期間の前半で精力的に実施する計画であり、ほぼ計画通りに進めることができている。現在は、収集したデータを分析し、まとめている段階である。もう一方の福島県の調査のほうは、原発事故の被害のあった地域である。地元住民の方から調査の承諾を得ることができ、聞き取り調査もさせてもらっているが、まだ帰村が実現しておらず、農地管理に関しては、あまり調査が進んでいない。しかし、研究課題の申請をした時から、事例地が被災地であり、調査協力を得ることの難しさや、予期していなかった事が起こる可能性を考えて、時間をかけて調査をする計画を立てていた。事例地の住民の方々から調査協力を得ることができているため、順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、福島県の事例地での調査に注力する。帰村の目途が立ち、さまざまな動きや課題が顕在化してきているので、なるべく頻繁に調査に赴きたいと考えている。また、地理的に隣接していて自然条件などに共通する点が多い地域で、すでに帰村が実現しているところがあるため、その地域の状況なども把握し、調査や分析に役立てたいと考えている。今後の学会発表や論文執筆に向けて、研究会など研究者と議論する機会も積極的につくりたいと考えている。
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Causes of Carryover |
本研究課題では、旅費の支出が予算の大半を占めることになるが、2つの調査地のうち、旅費が多くかかる福島県の調査地(原発事故の被災地)では、昨年度は農地に関する調査を進めることが難しく、当初の計画通りに予算を使用することができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
福島県の調査地で農地に関する調査を進められる状況に少しずつなってきているように思われるので、できるだけ頻繁に現地に足を運び、調査を実施する計画である。
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