2015 Fiscal Year Research-status Report
環境介入型のリスク消費行動変容のためのデザインド・コミュニケーション研究
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26780350
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Research Institution | Konan Women's University |
Principal Investigator |
大友 章司 甲南女子大学, 人間科学部, 准教授 (80455815)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | プライミング / 食品消費行動 / フィールド実験 / 行動変容 / 習慣 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、過剰な消費行動を誘発する“毒された環境”に代表されるように、環境によって誘発されるリスク行動の抑制のために”デザインド・コミュニケーション”という新たな介入理論を構築することを目的とした。平成27年度は、不健康な食品消費行動の変容のためのデザインド・コミュニケーションのフィールド研究を実施した。具体的には、ダイエットをプライミングするデザイン刺激を導入し、不健康な消費行動を抑制する効果について、一定期間の変化を経時的に観察するフィールド実験により検討を行った。まず、大学生を対象に予備的なフィールド実験により、ダイエットのプライミングとなるポスター画像刺激の効果を行動データや心理変数に対する影響から検証した。次に、予備実験の検証結果に基づき、ダイエット・プライミングの経過時的な効果を検証するため、スナックの消費行動をFFQ法により縦断的に測定するフィールド実験をweb調査モニタの参加者を対象に実施した。 その主な結果として、ダイエット・プライミングにより不健康な消費行動が抑制されることが示唆された。そのプロセスの1つに、プライミングにより消費を誘発する衝動的な動機や習慣の影響力が抑制されて行動が減少するルートが確認された。2つは、ダイエッターのダイエット意図がプライミングにより活性化することで、行動が抑制されることが確認された。3つは、消費行動に対する外的な行動コントロールの影響をプライミングが調整することで、行動の現象に至るプロセスが確認された。 以上の研究成果により、デザイン刺激を用いたダイエット・プライミングが不健康な消費行動を抑制する介入方略としての有効性を、心理学的な媒介プロセスを実証的に検証することで新たに明らかにしている。本研究成果の一部は、2016年の国際心理学会およびヨーロッパ健康心理学会において発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、不健康な消費行動を対象に、ダイエットをプライミングするデザイン刺激に接触することで行動変容を生じさせることを検討するフィールド実験を実施した。前年度の電力消費行動の研究成果を応用し、ダイエット・プライミングの効果を左右するさまざまな調整変数を測定することで、より詳細な検討を行った。その結果、ダイエット・プライミングは行動を直接変容する効果だけなく、動機や習慣、ダイエット経験など媒介プロセスを経由して行動変容を生じさせることも明らかされた。媒介プロセスの影響については、これまでのフィールド研究では十分に検討されておらず、本研究の包括的な2重モデルを用いたアプローチによって新たな解明された点は非常に評価できる。 また、本研究では、ダイエットをプライミングするデザイン刺激を一般的に利用できるシンプルな画像を用いて作成した。それにより、日常の生活場面で研究成果を応用できる生態的な妥当性の高い結果であることも研究成果として評価できる。一連の研究は、人々の実際の消費行動を対象に検証されており、実用性の高いレベルで応用が可能である。とくに、媒介プロセスの研究成果を合わせることで、現実場面のさまざまな条件に応じて、ダイエット・プライミングを導入することができる。このような知見は介入理論を発展させる上で貴重な成果といえる。 さらに、前年度の電力消費行動の研究成果の一部は、エネルギー・資源誌に査読論文として掲載された。また、研究成果は国際環境心理学会(BCEP)や日本心理学会において発表された。ダイエット・プライミングの研究成果については、国際心理学会やヨーロッパ心理学会において発表予定である。その成果の一部は国際誌に投稿中である。 よって、フィールド実験により生態的な妥当性の高い研究成果が得られ、研究発表も十分に行っていることから、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度では、福島産の農産物の買い控え行動の解消のデザインド・コミュニケーションのフィールド研究を実施する。これまで、福島産の農産物に対する忌避的反応は、一種のスティグマ化によって生じている可能性が指摘されている(大友・広瀬, 2014)。現実の農産物に対するリスク消費行動を対象にするため、事前に実態調査を行い、現実の問題と研究デザインに齟齬が生じないように配慮する必要がある。そのため、消費者庁の実態調査(消費者庁, 2016)などの最新の社会調査データを反映した条件設定が重要である。また、前年度までのフィールド研究で用いたプライミングのデザイン刺激を応用した感情プライミングを導入する。デザイン刺激の作成に際して、予備実験により調整を加えていく。さらに、今回のフィールド実験では、従属変数の測定方法としてWTP(最大支払意志)法を用いる。参照産地と福島産の比較する手法など(氏家, 2012)、WTP法による測定手法についても予備実験で精査する。加えて、前年度までの研究成果から、プライミング効果の影響を左右する調整変数が存在することが明らかにされている。とくに、福島産の農産物に対するリスク消費行動として、福島産の農産物の購入機会や接触頻度といった環境的変数に加え、学歴や家族構成などの社会経済属性が影響を及ぼす可能性がある。これらの変数がプライミング効果の調整要因としての作用についても検討を行う。 以上の方策に加え、最終年度として研究成果の発表を積極的に行う。まず、本年度の研究成果を国内外の学会で発表する。とくに、2016年度は国際心理学会で健康行動の変容の介入研究に関するシンポジウムの企画に参加し、一連のプライミング研究の成果を発表していく予定である。さらに、Journal of Risk Researchなどの国際誌に査読論文として研究成果をまとめていく予定である。
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Causes of Carryover |
消耗品や旅費等で価格の変動により当初の予定より差額が生じたため、その額を次年度に繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の調査委託費として前年度繰り越し分を利用する。
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