2014 Fiscal Year Research-status Report
大学生の共創的越境力を促進する教育方法・評価法の効果に関する実証的研究
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26780353
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
田島 充士 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 准教授 (30515630)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 大学教育 / 越境 / 学問知 / 分かったつもり / アクティブラーニング / 対話教育 / グローバル人材 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、異なる生活・実践文脈を背景とする専門家同士の生産的対話(以下「共創的越境」と呼ぶ)を可能とする人材養成のための教育方法および教育評価法について検証を行うものである。本年度は本研究の初年度に当たるため、理論面・実践面における基礎的な検討作業を行った。 理論研究としては、ロシアの教育心理学者・ヴィゴツキーおよび、言語学者・バフチンの議論を中心に検討し、本研究で目指すべき教育実践の位置づけについて検討を行った。その結果、大学教育において共創的越境を行い得る人材を育成するため、学外の体験学習を通して学ぶ知識(「実践知」と呼ぶ)と学内の授業を通して学ぶ知識(「学問知」と呼ぶ)を相互参照し、学生自身の新たな「理論」を構築できる機会を提供することと設定した。一方、先行する実践報告を検討した結果、このような学生達自身の相互参照を従来の講義型授業の中で促進することは困難であり、ディスカッション・学生発表などのアクティブラーニング形式の教育方法を開発する必要があることも確認した。 実践研究としては、研究代表者が実施する受講生100名程度の大型授業(生徒指導に関する授業)および20名程度の中型授業(教育心理学の発展的理論を学ぶ授業)において、学生自身による実践知と学問知の往還を促進することを目指した教育方法の開発を行った。その結果、いずれの規模の授業においても、グループワークおよびロールプレイなどのアクティブラーニング型の活動を導入することで、学生による学問知と実践知の相互参照活動の促進が可能であることが確認できた。特に大型授業では、従来型の講義形式の学習内容と組み合わせることで、上記の学習活動の内容をより深化できるという手応えを得た。 以上のように、本年度の研究は理論面・実践面において、本研究プロジェクトのキックスタートにふさわしい基礎的成果を得たという点で、意義があるといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度における理論研究および実践研究の実施については、おおむね順調に進展していると考えている。 理論研究では、教育実践の評価・分析において定評のあるヴィゴツキー・バフチン理論の検証を進め、共創的越境への参加を可能とする人材育成に関連する言語学・心理学概念の検証を行った。その結果、互いの主張の独自性を失わず、同時に相互接触を通じて新たな世界観を創発する共創的越境の実現を通して形成し得る市民社会モデルとしての「ポリフォニー社会」と呼ぶ新概念を創出し、大学教育の人材養成を通じて目指すべき理想的な社会像として設定した。 また実証研究でも、中規模および大規模授業における受講生への効果的な介入可能性を確認できたことは、大きな成果だった。特に先行研究における検証実績が少ない大規模授業において、学問知と実践知との往還活動を促進し得る教育方法を開発・試行できた点は、重要な成果であると考えている。また中規模授業における介入方法としては、学生自身が研究発表-質問-評価をより自律的に行いえる授業システムを新たに開発・試行し、予想以上の成果を上げることができた。さらに新人対応に関わる企業人への個別インタビューも実施し、人材養成のイメージ像に関する実践的示唆を得ることもできた。 以上の研究成果は、査読付き学術論文2本(国内誌1本・国際誌1本)、国際学会発表1本(査読付)、国内学会発表7本(招待発表4本含む)として発表した。 以上のように、理論面・実践面から生産的な成果を得ることができたため、研究はおおむね順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2015年度においては、当初の研究計画通り、2014年度の研究成果をもとに理論研究・実践研究をさらに深化させる予定である。 理論研究としては、ヤクビンスキーの言語学的理論の検証を視座として、バフチン・ヴィゴツキー理論を発展的に解釈し、共創的越境に関する言語・教育心理学的分析を深めていく。バフチン・ヴィゴツキーの理論的文脈について広く検証し、また最新の教育実践報告とも接続することで、現代における大学教育の様々な実践現場に適用可能な、より強靱な人材育成モデルの構築を目指す。 実践研究としては、2014年度の成果を基に、引き続き教育方法の開発につとめる。またこの教育法開発に対応し、受講生の学問知と実践知の相互参照活動を評価し得る教育評価法についても、パイロットスタディを開始する。さらに、以上の授業を受講する学生らの意識調査も行い、より実態にあった教育方法・評価方法の開発を行う上での基礎資料とする。 以上の理論研究・実践研究をもとに、本研究が理想社会像として設定した「ポリフォニー社会」への実現に向けた大学教育のありかたについて提言を行うための論文および著作執筆・学会発表にも取り組む。
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Causes of Carryover |
2014年度においては、キックスタートとして理論研究に比重を置いて研究を実施した。そのため、実践研究については、この理論研究をベースとした教育方法の開発・試行にとどまり、この実践を対象としたデータ分析および詳細な分析については、次年度以降、さらに深化させて実施することにした。そのため、調査 で必要となる一部の機材の選定についても、2015年度以降に実施することにしたため当該の次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2015年度は最適な機材を選定・購入し、2014年度において得られた知見をベースとした、さらに深化したデータ収集・分析を進める予定である。またこれにともない、分析に必要となる人件費・謝金の出費にも使用する予定である。
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Research Products
(10 results)