2015 Fiscal Year Research-status Report
認知的特性に着目した転換的語り直しによる心理的回復・成長モデルの構築
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26780392
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Research Institution | Shokei Gakuin College |
Principal Investigator |
池田 和浩 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 准教授 (40560587)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 自伝的記憶 / 転換的語り直し / 語りの目的 / 心的外傷後成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ポジティブな転換的語り直しの効果を引き出す認知特性を抽出し、体験の肯定的再評価から心理的回復・成長に至る内的なモデルを調査および実験室実験によって構築することを目的としている。平成27年度は、語り手が有する語り直しの目的特性(どのような目的のもとで語りを行いやすいか)を抽出すること、および、ネガティブな自伝的記憶への意味づけ方略が各特性によって規定されうるかを検証した。 第一に、243名の参加者から、生活の中で具体的に語り直しを行う状況を思い出しながら、4つの語り直しのタイプ(ポジティブ反復、ネガティブ反復、ポジティブ変化、ネガティブ変化)に応じて、思いつく限り、語りの目的を記入するよう求めた。KH coderを用いたコレスポンダンス分析を行った結果、人の語りの目的が、(1) 他者志向的否定的感情制御:ネガティブ反復、(2)他者志向的肯定的感情制御:ポジティブ反復、(3)自己志向的認知制御:ポジティブ変化、の3つに分かれることが確認された。 続いて、特定のネガティブな体験の記憶を過去に語り直した傾向が、記憶の特性や心的外傷後成長(PTG)に与える影響を確認した。220名の参加者は、1つのネガティブな体験の記憶について、頻繁に使う語りの方略(ネガティブ反復、ポジティブ変化、感情排除、語り無し)を回答し、いくつかの記憶の特徴に関する指標に評定した。調査の結果、ネガティブな記憶をポジティブな視点から転換的に語り直す方略には、否定的な感情価を低減させ、記憶への意味づけを積極的に促進し、PTGを活性させることが確認された。 これらの調査結果から、語りの目的に沿う転換的語り直しの使用は、感情制御を促進させるだけでなく、過去の体験を未来へとつなげるような肯定的影響を有することが推察される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日常生活の中で具体的に活用されている語りの目的を分類することで、否定的な過去を肯定的な側面から捉えなおすには、あらかじめ情動的に制御がとれた状態が求められることが明らかにされた。これらの調査結果は、認知心理学会のシンポジウムにて成果発表を行うことができた。この分類を基準にすれば、私たちが日ごろ恒常的に用いる語りの目的を抽出することが可能となる。この点については、次年度以降の研究で明らかにしたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、転換的語り直しを効果的に使用するための語り特性を測定するためのツール(質問紙)を作成する。また、ツールを用いて語り直しの効果を実証的に検証する。この測定法を用いることで、転換的語り直しがより効果的に働く状況を特定する。なお、次年度は助成期間の最終年度である。そこで、これまでの研究を統合的にまとめることで、転換的語り直しを効果的に活用するための実用的なモデルを提案する。
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Causes of Carryover |
経費支出過程で、全体として端数が生じたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の実験における人件費および謝金、また学会発表旅費で使用する。
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Research Products
(8 results)