2014 Fiscal Year Research-status Report
主観的ウェルビーイングと症状からなる精神的健康と心身ストレスとのメカニズム解明
Project/Area Number |
26780405
|
Research Institution | Kyoto Tachibana University |
Principal Investigator |
田中 芳幸 京都橘大学, 健康科学部, 助教 (50455010)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 主観的ウェルビーイング / 心理的ウェルビーイング / いきいき度 / 幸福感 / ポジティブ感情 / ネガティブ感情 / 精神的健康 / 心理的機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
先行研究の多くで主観的ウェルビーイング(Subjective well-being; SWB)の下位概念とされる人生満足感とポジティブ・ネガティブの両感情には、当初計画通り、人生満足度尺度(SWLS)の邦訳版(大石、2009)と日本語版PANAS(川人ら、2011)を用いた。さらに、SWB概念の提唱者であるDienerが近年ウェルビーイングの測定にとってフロー体験が有効と述べていることを鑑みて、FS-JとSPANE-J(Sumi、2014)も測定内容に加えた。 類似概念には、当初計画通り心理的ウェルビーイング(西田、2000による日本語版)と本邦にて独自開発された改訂-いきいき度(PLS-R)(田中ら、2006)を測定した。さらに、これらと同様に人々のポジティブ側面を反映するとされSWBの邦訳語に用いられることもある主観的幸福感についても日本語版SHS(島井ら、2004)にて測定することにした。 関東、関西、九州地区の大学生計592名に調査を実施し、30歳代以上と虚偽項目に該当したり未回答項目が多かったりした者を除外した583名分のデータを分析に供した。PANASのポジティブ感情とSPANE-Jのネガティブな気持ち以外、全ての関連下位尺度間で有意な相関関係を確認した。PANASについては中程度以上(r≧.4)の関係を示した他尺度が少なく、ある程度の独立性が保たれた尺度であることを確認した。これに対してPLS-Rの総点がPANASのポジティブ感情との関連(r=.35)以外の全てで中程度以上の関係性を示し、特にSWLS(r=.66)やSHS(r=.69)、SPANE-Jの気持ちのバランス(r=.69)やFS-J(r=.68)との関連が強かった。以上の結果から、本邦の大学生に対して類似概念を包括しながら精神的健康のポジティブな次元を測定するにあたっては、PLS-Rが有用だと考えた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
4年間にわたる一連の研究における第一研究として計画した精神的健康の二次元モデルにおける主観的ウェルビーイング次元について、当初の目的に沿って、本邦大学生を対象とした際に適切な概念構造や測定項目を抽出できた。このため現在の達成度はおおむね順調と考えた。 当初計画では、地域性を考慮しながらの検討をおこなうために各地区から300名ずつの計900名に調査することを試みていた。しかしながら、実際の調査依頼状況や依頼した各地区の大学教員の都合により、急遽に追加の依頼を行うなどの対応をしたものの200名程度ずつの600名分弱のデータ収集しか行えなかった。この点において十分な達成度とは言い難いが、最終的に今後の一連の研究で優先すべき測定内容と考えたPLS-Rについては地域間での平均値の差異が認められなかったことも鑑み、十分なデータにて検討できたと考えている。 さらに、当初計画には含んでいなかった概念である幸福感やフロー体験、概念としては想定していたものの測定項目としては含んでいなかったSPANE-Jもあわせて調査を実施したことについては当初計画以上の成果だと考えている。先行研究を改めて収集、検討することにより当該年に報告された最新知見による測定項目を含めて検討することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度におおむね順調な達成度であったことから、当初研究実施計画に沿って今後の研究を推進したい。すなわち平成27年度中に研究2として、平成26年度に優先すべきとされた測定内容を用いて調査研究を実施し、二次元論による精神的健康と主観的ストレスとのメカニズムに関する理論モデルの構築を行う。その後、二次元論に基づく精神的健康状態による心理生物学的ストレス反応の誘起と回復の違いについて検討しつつ、心理生物学的ストレス反応の誘起を低減したり回復を促進したりするポジティブな心理的機能を実験的研究によって明らかにする計画である。 一点考慮しておきたいのは、平成26年度中に本邦の大学生に対して類似概念を包括しながら精神的健康のポジティブな次元を測定するにあたってはPLS-Rが有用だと考えたことについてである。これは幸福感や心理的ウェルビーイングなどといった主観的ウェルビーイングに類似する概念を包括しつつ測定が可能であることを以て結論づけたものである。別の言い方をすれば、類似概念との独立性を保てないということにもつながる。より独立性が保たれた概念により精神的健康を捉えた方がストレス緩衝にとって有用な指標が見出さるのか、包括的な概念に基づいた方が適切であるのか、先行研究も参照しながら更に検討を深めたうえで今後の研究を推進したい。
|
Causes of Carryover |
最も大きな理由は人件費・謝金を削減したことにある。調査協力者の所属機関によって、謝金支払を避けたいとの申し出があり、統一をはかるために今回の調査では全ての協力者への支払いを避けた。謝金に代えて、測定結果の一部を個人ごとにフィードバックした。人件費としてはデータの入力や整理等を想定していたが、回答済みの調査用紙をマークシート方式で読みとり可能なものに工夫するとともに、全てのデータ整理を研究代表者が行うことで削減した。マークシート方式への工夫については経費削減につながったものの、回答に伴う調査協力者の負担が増加したり、回答時間が長くなってしまったりという問題も生じたため今後の課題である。また、通常のアンケート用紙上にてマーク部分を設置するためか、少なくない数の読みとりエラーが生じたことも今後の使用に対する課題である。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度に収集したデータについてさらに解析を進めたり、課題として残った内容について国内外の先行研究を参照したりするために活用したい。平成27年度は26年度と同様に調査研究であるため資器材に対する支出は概ね当初見込み通りだと思われる。ただし、マークシート方式の導入により生じた課題や研究代表者の本研究に対するエフォートの増加を鑑みるに、データの入力や整理等を行う補助者への研究に関する説明等を十分に行う必要性を感じるため、これに伴う支出が見込まれる。また、平成28年度からの実験的研究について、当初計画にて想定していた測定内容よりも本研究に適した測定手法の存在を確認したため、このための機材充実にも活用したい。
|