2016 Fiscal Year Research-status Report
主観的ウェルビーイングと症状からなる精神的健康と心身ストレスとのメカニズム解明
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26780405
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Research Institution | Kyoto Tachibana University |
Principal Investigator |
田中 芳幸 京都橘大学, 健康科学部, 准教授 (50455010)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 精神的健康の二次元モデル / ストレス / 主観的ウェルビーイング / ポジティブ感情 / ネガティブ感情 / 心拍変動 / 自律神経系 / 心理的ウェルビーイング |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は調査研究データの収集を継続しつつ、当初計画に沿ったメンタルストレス負荷実験を行った。年度内実験研究における収集データのうち、精神的健康二次元の精神症状次元が低い18データを心理統計学的解析に耐えうるものとして検討した。主観的ウェルビーイング次元に該当する実験開始前のポジティブな感情もしくはネガティブな感情の高低×メンタルストレス負荷課題前後と30分後までの時期を独立変数として、心拍変動解析システムで得た各指標を従属変数とした反復測定による二要因分散分析をそれぞれに行った。 その結果、事前のポジティブな感情やネガティブな感情の高低によらず、課題後の瞬時心拍平均値が他の時点よりも有意に高値であった。主観的ストレス反応の推移だけでなく心臓血管系反応の点でも、本実験のメンタルストレス負荷が適切であったことを示唆できた。 また、事前のネガティブな感情が高いと課題付加終了後20分でHFが高まるが、この感情が事前に低い場合には課題終了直後から10分後にかけて高まったHF値が30分後まで有意差なしとの交互作用効果も有意傾向で確認した。さらに事前のポジティブ感情が高い場合には課題直後のHFが低く、この感情が高い場合には同時点でのHFが高値(10分後以降は感情の高低による有意差はないものの平均値が逆転)との違いも有意傾向で認めた。 HF成分は副交感神経系の反応を反映すると考えられている指標である。このため上述のHF成分に関する結果は、少なくとも精神症状次元が良好な状態であると、主観的ウェルビーイング次元も良好だとストレス負荷に対して適切に反応し、その反応からの回復が早いことを示唆する。また、主観的ウェルビーイング次元の下位要素であるポジティブな感情はストレス状況への適切な反応性を、一方のネガティブ感情の低さは反応からの回復を早める可能性をというそれぞれの役割を示唆することもできた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は主に、当初計画に沿ったメンタルストレス負荷を伴う実験研究を実施した。実験プロトコルについて、予備実験によりパーソナルコンピューター上での鏡映描写のみでもメンタルストレス負荷が可能であることを確認できた。このため当初3課題を想定していたが、実験参加者の負担を鑑みて、この1課題に限定したことが当初計画からの変更点である。また、ストレス負荷に伴う心臓血管系反応として、当初は血圧と脈拍を指標にすることを計画していたが、心拍変動解析システムにより測定する高周波成分域(High Frequency; HF、 0.15~0.40Hz)と低周波成分域(Low Frequency; LF、 0.04~0.15Hz)から推定される自律神経系反応の変化を指標にすることとした。 上述のとおり近年の研究動向を踏まえつつ、単に脈拍数による検討を超えて、心拍変動解析システムの測定値から推定される自律神経系反応の変化を指標とした検討を開始できた。また当初の平成28年度中計画は「二次元論に基づく精神的健康状態による心理生物学的ストレス反応の誘起と回復の違い」として、精神症状次元の高低と主観的ウェルビーイング次元の高低を組み合わせた4群での検討を予定していた。この計画に対して、平成28年度中に主観的ウェルビーイング次元の内容にまで踏み込んだ解析を済ませ、部分的にではあるが「心理生物学的ストレス反応の抑制と回復に効果的なポジティブな心理的機能の解明」にまで進展していることは当初計画以上の成果だと考える。一方で、精神症状次元が高い者の実験データは、心理統計学的解析を行うに十分な数に達しておらず、そのような者にとっての主観的ウェルビーイング次元の役割に関する検討は行えていない。以上のように当初計画を超える成果と若干のデータ数不足が混在していることから、全般としておおむね順調との達成度と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度での計画見直しを踏まえ、平成28年度中に当初計画に含めていなかった心理的ウェルビーイング(PWB)の変数を含めた調査を実施し、十分なデータ収集を済ませた。既に平成27年度中の収集データを用いて、当初に仮説した主観的ウェルビーイング(SWB)のストレス緩衝効果だけでなく、SWBとPWBとでストレスメカニズムの各過程における役割が異なり、その役割が精神症状の高低によって異なる可能性までを検討済みである。今後、当初計画における調査研究部分の最終結果として、平成27-28年度に収集済みのデータを統合した上で、共分散構造分析等の心理統計学的解析を行う予定である。PWB要因も含めた「二次元論による精神的健康と主観的ストレスとのメカニズムに関する理論モデルの構築」を終え、データの不足を補ったうえでの確証が得られるものと推測している。 実験研究でも、二次元論に基づく精神的健康状態による心理生物学的ストレス反応の誘起と回復の違いについて検討しつつ、心理生物学的ストレス反応の誘起を低減したり回復を促進したりするポジティブな心理的機能の解明がすでに進展中である。先述のとおり精神症状次元が低い者については平成28年度中に検討できたため、今後は精神症状次元が高い者のデータを中心に収集したい。これにより、二次元論に基づく精神的健康の各状態についての解析を行える。ただし平成28年度中の実験参加者募集状況より、精神症状次元が高い者に参加してもらうことの困難が想定される。今後の状況によっては、精神症状次元のカットオフ値でなく平均値や中央値での区分を採用するなどして対応する。さらに可能であれば、平成27年度までの調査研究で検証済みのいきいき度のSWB側面とPWB側面を活用しつつ、精神的健康二次元のSWB次元に限定せず、PWB概念についても精神症状の高低による役割の違いを実験研究でも検討したい。
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Causes of Carryover |
最も大きな理由は今年度の使用状況によるものではなく、平成27年度に生じた繰越金が所以である。一昨年度に人件費・謝金を削減したことと成果発表のための旅費を抑えることが出来た。平成26年度に調査協力者への謝金支払いを避けたため、その後今年度まで謝金の支払いは行わず、結果の一部を協力者へフィードバックすることで対応してきた。平成28年度に開始したストレス負荷実験研究においても実験参加者への謝金支払いを避けて、結果の一部を協力者へフィードバックしたり、参加者が大学生であることを鑑みて一定期間終了後に関心を有する者へは機材利用方法を教授したりするなどの対応を行った。また研究代表者自身で全ての実験やデータ解析を行うことにより、研究補助費を削減したことも次年度使用額が生じた一因となっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまでに調査研究として収集したデータを統合して全データを用いた解析を進めるために活用したい。この点においてデータ入力までは今年度中に終了しているが、研究代表者の本研究に対するエフォートの増加を鑑みるに、データのクリーニング等の整理や解析を行うために統計ソフトを駆使できる研究補助者の協力を得たいと考えている。さらに次年度は実験研究が主となり、実験資器材に精通した研究補助者を確保するための支出、研究補助への人件費が見込まれる。また先述のとおり、平成28年度中の実験参加者募集状況を考慮すると、平成27年度までのように実験参加者への謝金支払いを避けることは得策でないようにも感じる。このため、謝金の有無による実験結果の差異に十分な配慮をしつつ、平成28年度に行う実験参加者への謝金としても活用予定である。
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