2017 Fiscal Year Research-status Report
主観的ウェルビーイングと症状からなる精神的健康と心身ストレスとのメカニズム解明
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26780405
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Research Institution | Kyoto Tachibana University |
Principal Investigator |
田中 芳幸 京都橘大学, 健康科学部, 准教授 (50455010)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 精神的健康の二次元モデル / ストレス / 主観的ウェルビーイング / ネガティブ感情 / 心拍変動 / 自律神経系 / 心理生物学的ストレス反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
主観的ウェルビーイング次元の高低と精神症状次元の高低による心理生物学的ストレス反応の推移について、メンタルストレス負荷課題前から回復期30分までにわたって検討した。二要因分散分析の結果、いずれの次元の高低にかかわらず、課題直後時点で交感神経系の反応状態を反映するLF/HF比と心拍の有意な上昇を認めた。一方、主観的なネガティブ感情の推移には交互作用効果を認めた。主観的ウェルビーイングが高い場合は単純主効果が有意でなく、低い場合でのみ課題によって上昇したネガティブ感情が10分後に低下し、20分後には変化がなく30分後になって沈静化した。精神症状次元でも、高い群のみで課題直後にネガティブ感情が有意に高まり10分後に低下、回復期30分でさらに低下した。 副交感神経系を反映するHF値については、主観的ウェルビーイングの高低によらず課題直後のみで有意に低値だったが、精神症状の高低では交互作用を認めた。精神症状が低い群では課題直後に有意なHF値の低下を認めず、10分後に有意に上昇するものの20、30分後では課題直前と同程度に回復した。対して精神症状が高い群では課題直後に低下し、回復期10分後で課題前と比べても有意に上昇した値が30分後になっても回復しなかった。 以上のことから、精神的健康の双方の次元の高低によって、心理生物学的ストレス反応の誘発や回復の推移が異なることを確認できた。特に主観的ウェルビーイング次元が高い場合には、生物学的反応が惹起されても主観的なネガティブ感情が上昇するまでには至らない可能性を示唆した。また精神症状次元が低い場合には、本研究で用いるレベルの課題では心身のストレス反応が大きくは誘発されずにすむ可能性も確認した。一方で精神症状が高い場合には、ストレス負荷によって容易に反応が誘発され、回復期に生じる一時的な生物学的反応からの離脱状態が長く続く可能性も示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度と異なり今年度は、精神症状次元が高い者のデータも得た。この検討に先立ち今年度の実験参加者データにて、主観的ウェルビーイング次元と精神症状次元との関連性について検討を行った。その結果、二次元間は中程度の相関関係(r=-.69)であり、双方の高低を組み合わせた分布でも、少率ではあるものの精神症状が高くとも主観的ウェルビーイングが高かったり、いずれもが低かったりという者の存在を確認した。この結果は過年度に収集した大規模調査研究データによるものと一致しており、今年度に得た参加者データにて双方の次元を独立して検討する適切性を示すことができた。 この主観的ウェルビーイング次元と精神症状次元について、それぞれの高低による「心理生物学的ストレス反応の誘起と回復の違い」を検討できた。さらにこの検討にあたっては、昨年度での測定内容の見直しを踏まえて、単に脈拍数による検討を超えて、心拍変動解析システムにより測定される高周波成分域(High Frequency; HF、 0.15~0.40Hz)と低周波成分域(Low Frequency; LF、 0.04~0.15Hz)から推定される自律神経系反応の変化を生物学的ストレス反応として捉えた解析を行えた。 しかし未だ心理統計学的解析を行うに十分なデータ数に達しておらず、精神症状次元の高低と主観的ウェルビーイング次元の高低を組み合わせた4群での検討を行えていない。一連の本研究課題の目的は、個人の心理生物学的ストレス反応の誘起と回復の過程に対する主観的ウェルビーイング次元による役割が、精神症状次元の高低によって異なる可能性を検討するものである。また主観的ウェルビーイング次元については、その構成要素ごとの検討も行いたい。以上踏まえて、達成度を総じてやや遅れていると自己評価し、さらにデータ収集を進めて両次元を組み合わせた4群での検討を今後の課題とした。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度と同一の方法論にて、実験データの収集を進めることが最も大きな今後の研究の推進方策である。昨年度の実績報告へ記したとおり、今年度は精神的健康の二次元論における精神症状次元が高い者をスクリーニング調査によって抽出し、その中で協力を得られた参加者を中心に実験データの収集を開始した。しかしながら想定どおりに、精神症状次元のカットオフ値によって高精神症状者と判定される者は少なく、さらにそのような判定がなされた者に本研究におけるストレス負荷実験へ参加してもらうことは困難であった。実験的研究の開始時に、当初想定していたメンタルストレス負荷課題を3課題から1課題へ削減し、これに伴い個人ごとの実験時間の短縮も行うなど、参加者の負担軽減を図ってきた。とはいえ同意を得たとしても倫理的配慮として実験者側からストレス負荷実験への参加を断った者も存在するなどデータ収集の困難が生じた。 上述の困難度を踏まえて、年度途中より精神症状次元のカットオフ値によるスクリーニングを断念し、幅広くデータ収集をしたうえで精神症状次元については中央値での区分を採用して心理統計学的解析に供することにした。この区分による高低でも精神症状次元の得点に有意差を確認できた。また研究実績の概要へ示したとおり今年度に、この区分でも心理生物学的ストレス反応の誘発や回復の推移が異なることを確認した。以上を踏まえて今後も、精神症状次元の高低に捉われずに幅広くデータの収集を進め、平均値や中央値での区分を採用して心理統計学的解析を行う。これにより主観的ウェルビーイング次元と精神症状次元とを組み合わせた4群での心理生物学的ストレス反応の誘発や回復の推移の違いを検討する。さらに主観的ウェルビーイング次元については、いきいき度の下位概念ごとや主観的ウェルビーイング側面や心理的ウェルビーイング側面といった中位概念を活用しつつ検討を進める。
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Causes of Carryover |
昨年度と同じく、最も大きな理由は平成27年度に生じた繰越金が所以である。一昨年度に人件費・謝金を削減したことと成果発表のための旅費を抑えることが出来た。その後の調査やストレス負荷実験においても参加者への謝金支払いを避けて、結果の一部を協力者へフィードバックしたり、一定期間終了後に関心を有する者へ機材利用方法を教授したりするなどの対応を行ってきた。また平成29年度はデータ収集数が少なかったこともあって研究代表者自身で全ての実験やデータ解析を行い、研究補助費を削減したことも次年度使用額が生じた大きな理由となった。 平成29年度中に精神症状次元のカットオフ値の採用を断念したため、次年度はスクリーニング調査を避けて、もしくは実施してもカットオフ値にこだわらずに一定以上の特徴ある参加者から幅広くデータ収集を行うことにする。このため実験実施に伴う電極などといった消耗品へ次年度使用額を用いたい。また研究実施期間の延長に伴い、統計ソフトや心拍変動解析ソフトをインストールしているパーソナルコンピュータの保護、データ保存媒体の購入などに掛かる支出が見込まれる。また調査研究で収集したデータのクリーニングは研究代表者自身で済ませたが、次年度に幅広くデータ収集を進めるために実験資器材に精通した研究補助者を確保するための支出、研究補助への人件費が見込まれる。また実験参加者への謝金支出も考慮する。
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