2014 Fiscal Year Research-status Report
ハンス・リップス解釈学におけるパトスを基盤とした知識教授理論の研究
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26780434
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
田中 潤一 大谷大学, 文学部, 准教授 (00531807)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 知識習得 / 言葉 / 道徳教育 / 表現 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度はハンス・リップスの解釈学に関する文献研究と、教授理論への応用研究を進めた。まずハンス・リップスに関する研究としては、「言葉の習得」の問題を中心に研究を進めた。本研究では知識習得のプロセス解明が目的であるが、本年度はその際鍵概念となる「言葉」を人間が修得するプロセスの解明に努めた。また教授理論への応用研究としては、道徳教育における具体的知識の重要性の解明および、カリキュラム構築を目指した。 まず知識習得論に関しては、関西教育学会第66回大会(平成26年11月16日)にて「ハンス・リップス解釈学における言葉と教育の考察」というテーマで発表を行った。言葉や概念が人間の行為から生じるプロセスを、「類似性」という観点から考察し、知識習得における「語り」や「トーン」の重要性を提示した。さらに日本思想との比較研究として、日本仏教教育学会第23回学術大会(平成26年10月18日)において「田辺哲学における国家論と道徳的行為の考察(2)―他者理解の教育学のために―」というテーマで発表を行った。リップスではパトスを基盤としながらもディスカッションを介して協同性が構築されるのに対して、田辺元では利他的な隣人愛が提唱されることを比較検討し、道徳教育に果たす役割を考察した。 また教授理論への応用研究では、「社会性育成をめざす道徳教育の理論と教材観に関する一考察」(大谷大学教育・心理学会『人間形成論研究』第5号)を執筆し、道徳教育において具体的知識を教授する実質陶冶の必要性を解釈学の立場から論じた。道徳教育において、知識習得を重視する教授法構築を試みた。また解釈学関連の資料を多く収集し、ディルタイから現在に至るまでの解釈学の文献を収集した。ノートパソコン等の物品を購入し、研究環境を整えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ハンス・リップスの文献研究に関しては、人間の認識構造を解明するという本研究の目的に照らして、ほぼ予定通りの進捗状況である。平成26年度は、人間の認識が事柄から客観的に生じるのではなく、人間の行為から生じるプロセスを考察し、「類似性」という契機が重要であることを明示した。さらに「語り方」や「トーン」の重要性が指摘できたことは、今後の研究への大きな基盤となった。また文献読解も順調に進め、主著『解釈学的論理学』における論理学を概観することができたので、今後人間の行為との関連を解明し、教授法理論を新たに構築する土台としたい。ただし研究対象が主著『解釈学的論理学』に集中したため、もう一つの主著『認識の現象学研究』の研究がまだ十分に行われていない。今後両書の内容を総合的に検討することで、リップスの思想を大きな視野から考察することが可能になると考えられる。 解釈学の立場からの教授法研究に関しても、予定通りの進捗状況である。本研究では、近代の「教授―学習」スタイルに代わる、新たな教授法の構築を目標としているが、本年度はとりわけ道徳教育における教授法について研究を行うことができた。パトスを基盤としながらどのように協同性を構築するのかという問題を、道徳教育の観点から考察するとともに、道徳教育の教材・カリキュラムの問題として社会的知識(政治的・経済的教養等)を段階的に教授することの必要性を論じた。とりわけ形式陶冶と実質陶冶という観点を取り上げ、両者が相関的に行われることの重要性を解釈学の立場から提示した。また新しい教授法として、行為によって身体的に知識が修得されるプロセスを論じるまでに至り、この教授プロセスを実際の教育課程に活用するという今後の課題を見通すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、以下のように研究を予定している。 (1)引き続きハンス・リップスの思想を研究し、人間の認識構造と論理学について教育哲学の観点から考察したい。『認識の現象学研究』を中心に、研究を続ける。またリップス以外の解釈学の哲学者、ボルノーやキュンメル、ミッシュとの比較検討も行う。また日本思想との比較検討も視野に入れたい。具体的に取り上げるテーマとしては、「身体」「間主観性」等の諸概念を中心に、人間の認識構造と、教授理論との関係を考察する。伝統的な論理学とは異なる解釈学的論理学の内容を考察することによって、人間が知識を習得する根源的構造を把握し直し、現在教育現場で問題となっている、言語活動や思考力・判断力・表現力育成のための議論に寄与したい。平成27年度も1~2回学会発表を予定している。 (2)さらに解釈学を基盤とした教授理論についての研究を継続する。具体的には道徳教育のカリキュラムや教材観に関する研究、そして実質陶冶を重視した教授法やカリキュラム構築に関する研究を解釈学の立場から続行する。平成27年度は海外での学会発表を予定しており、解釈学を基盤とした道徳教育に関する発表を9月に米国で行うことを予定している。解釈学の理論が現実の教育問題に寄与できるような研究を行うことを計画している。政治的・経済的教養等のさまざまな具体的知識(実質陶冶的側面)を身体化しながら、人間ひとりひとりの自立・自律を育む(形式陶冶的側面)プロセスの考察を深めたい。さらにこれまで研究してきた「社会性育成」のみならず、「崇高さ」等のテーマにも取り掛かり、教師の果たす役割についても考察したい。 また解釈学に関する文献収集も続行し、主にドイツ語圏の文献を中心に、英米圏の文献を視野に入れて資料収集を行い、研究環境の整備につとめたい。
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Causes of Carryover |
平成26年度はハンス・リップスおよび解釈学関連の図書およびパソコン等の物品購入を行い、環境整備を十分に行うことができた。他方旅費に関しては、学会発表での出張が2回であったため、想定より少額となった。また文献収集が順調に進んだため、今年度は他機関の図書館への訪問調査をおこなうことがなかったこともあり、旅費を使用する頻度が少なくなることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度は、海外(アメリカ合衆国)での学会発表を1回、国内での学会発表・参加を1~2回予定しており、航空機代や宿泊代等で旅費の支出を計画している。またハンス・リップスおよび解釈学の文献収集も引き続き計画している。ドイツ語圏の文献のみならず、英米圏の文献も視野に入れ収集を行う予定である。また教授法への応用研究のための、教授法関連の文献収集も行う。
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