2014 Fiscal Year Research-status Report
国際比較にみる日本の学力格差の構造の解明―差異化と平等化のバランスに着目して
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26780482
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Research Institution | Rikkyo University |
Principal Investigator |
森 いづみ 立教大学, 社会学部, 助教 (30709548)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 学力格差 / 学校間格差 / TIMSS / マルチレベルモデル / 日本:韓国:台湾 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代日本における学力格差のあり方を、経年変化および国際比較の視点から実証的に明らかにすることで、日本の教育システムについて理論的、かつ政策的示唆を提示することを目標としている。1995年以降4年おきにおこなわれる国際数学・理科動向調査(TIMSS)を用いて、1990年代から現在までの間に、日本社会において学力達成にみられる格差がどの程度拡大または縮小してきたのかを明確にし、そうした変化の背後にある教育や社会システム、家庭や地域の要因について検討している。2014年度は、第一に日本における学校間の学力格差の経年変化と、第二に日本および東アジアにおける教育期待の規定要因の経年変化という二点を中心に研究を進めた。 一点目について、TIMSSの日本の中学2年生を対象とし、マルチレベル分析を行った。その結果、生徒の学力の総分散に占める学校間分散の割合が1999年から2007年にかけて増大し、2011年に若干縮小していたこと、また個々の学校内において生徒の家庭の社会経済的背景が学力に及ぼす影響が、1999年から2011年を通じて一貫して増大していたことが明らかになった。この成果をアメリカ社会学会のラウンドテーブルで報告した。 二点目について、同様にTIMSSの日本データを用い、1999-2011年の間に生徒の進学期待がどう変化したかを分析した。その結果、ここ十数年の間に、学力という業績主義的な要因に比べて、親の学歴という属性的な影響が強まっていることが明らかになった。類似の教育システムを持つ韓国および台湾と比較した場合、台湾において業績主義がもっとも強く働き、日本において親学歴の影響がもっとも強く働いていることが分かった。また、いずれの社会でも親学歴の影響は年々強まっていた。こうした結果を東アジア若手社会学者フォーラムおよび日本教育社会学会大会にて報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の進捗状況として、研究実績の概要で述べた二つの観点から、この10年余りの間に日本の学力格差や教育期待がどう変化しているかをひとまず実証的に明らかにできたためである。また、それらの変化を説明する要因として、家庭背景の影響をはじめ、都市規模など地域レベルの変数や、学校の組織文化や教員の資質を含む学校レベルの変数の影響、また学校選択(国私立受験、中高一貫校、公立選択含む)や習熟度別の導入、学習指導時間の変化など、同時期に起こった教育・社会状況の変化も合わせて分析・考察することができているためである。 TIMSSの国際学力調査データは複数年にわたり、対象集団が生徒・教師・学校、対象学年が小4と中2、対象教科も数学と理科というように、複雑な構成をもつデータだが、当該年度中に一通りデータを整理し、多岐にわたる変数の内容を把握することができた。とくに中学2年データについては、学校の所在都市の大きさや公立・国私立の区別、習熟度別指導の有無などといった重要な変数を丁寧に分析することができた。 さらに、アメリカ比較国際教育学会(CIES)に参加したり、日本語・英語両文献のレビューを深めることで、研究動向・研究方法に関する情報収集や整理が進んだ。CIESでは、マルチレベル分析に関する実践的なワークショップにも参加し、手法への理解を深めた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、大まかに以下の三つの方針に沿って分析を進めていく。第一に、2011年の日本を対象としたデータなど、単年度・一カ国のみを対象とした分析を深めていく。すべての変数が経年比較が可能なわけではないため、一時点に限定してその枠組み内で地域的の特徴や家庭・学校環境などに注目しながら、生徒の学力や学習意欲、進学期待の背景を探っていくことをめざす。第二に、日本の1995年~2011年のデータを利用した経年分析によって、この間の日本の教育や社会の変化を十分にふまえた分析を行う。この十数年は、学習指導要領の変化により、授業時間の削減と再増加、いわゆるメディア上で言われる「ゆとり教育」の実施とそこからの脱却が起こった重要な教育転換の時期にあたる。しかしながら、そうした政策の実証分析はまだ十分でない。この間に学校間や生徒間で起こった変化について、全国的・かつ長期的な把握を可能とするTIMSSデータの利点を生かして分析を行い、「どのような層の生徒の間でどの程度格差が拡大(あるいは縮小)したのか」について、実証的な知見を提示していきたい。第三に、多国間の国際比較により、日本社会の位置づけを明らかにすることをめざす。これについて、2015年度は、アメリカ社会学会のラウンドテーブルにて、クラスター分析を用いて日本を含む多国間の生徒の特徴を複眼的に把握する報告を行う予定である。 以上三つのいずれの方針においても、とくに学校間、学校内、さらには学校外で生じうる学力分散(学力格差)のバランスを、概念的かつ実証的にデータで把握し、教育の平等性・差異性に関する理論的考察を行うことで、最終的には教育機会の構造に関する議論を深めることを目標としている。今年度は引き続き学会報告を行い研究成果を公表していくとともに、前年度に行ってきた研究をより一層体系的に発展させ、論文にまとめていくことに重点をおきたい。
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Causes of Carryover |
前年度より、若干の差額を繰り越すこととなった。この主な理由は、初年度にリサーチアシスタントを雇用しなかったため、その分の人件費を使用しなかったことにある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度の米国学会への参加の費用に充てたいと考えている。
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