2015 Fiscal Year Research-status Report
国際比較にみる日本の学力格差の構造の解明―差異化と平等化のバランスに着目して
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26780482
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森 いづみ 東京大学, 社会科学研究所, 助教 (30709548)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 学力 / 学校間格差 / 学校効果 / 私立学校 / TIMSS / 傾向スコアマッチング / 国際比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代日本における学力格差のあり方を、経年変化および国際比較の視点から実証的に明らかにすることで、日本の教育システムについて理論的、かつ政策的示唆を提示することを目標としている。2015年度は、第一に学力と教育期待に関する短期的および長期的な変化、第二に私立学校の影響を含む学校コンテクストの影響、第三に国際比較の観点から主に研究を進めた。 一点目について、1995年から2011年までのTIMSSのデータを用い、日本の中学2年生の数学学力の規定要因のうち、生徒レベルと学校レベルの社会経済的指標(SES)が近年拡大傾向にあることを明らかにした。また、より長期的な視点から、1964年に実施された第1回国際数学教育調査(FIMS)の13歳時生徒のデータを分析し、教育拡大期における学力と教育期待には当時もそれなりの階層格差があったものの、関連する教育意識(学問への関心等)についてはそれほど階層差が見られなかったことを明らかにした。 二点目について、学校レベルのSESの影響のうち、どの程度が学校ごとの組織的特徴や教育実践によって説明されうるのかを検討した結果、公立学校については、関連する学校レベルの変数を統制した上でも、一定の学校SESの効果が残ることが分かった。これは、学校ごとに似たような家庭背景をもつ生徒が集まることによる効果(school composition effect)を示していると言える。また、日本の私立中学について、傾向スコアを用いた分析の結果、とくに階層の低い生徒ほど、教育期待を高めやすいこと等が分かった。 三点目について、階層が学力を経由して教育期待に及ぼす影響や、階層と生徒の学習態度(モチベーション、自信など)との結びつきが、国ごとにどのように異なり、とくに日本を含む東アジア社会ではどのような特徴が見られるのかを分析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(理由) 二年目の進捗状況として、研究実績の概要で述べた1)経年変化、2)学校効果、3)国際比較の三つの観点から、それぞれの方向へ精力的に研究を進めることができたため。 一点目の経年変化については、初年度から検討していた1990年代後半以降の学力格差の分析を深めると同時に、新たに第1回国際数学教育調査(FIMS)の13歳時生徒のデータを分析し、90年代以降という比較的短期的なスパンを見るだけではとらえきれない、戦後の教育拡大期を視野に入れた学力と教育期待に関する分析を行うことができた。またそれと同時に、発表した論文おいて、学力や教育期待、教育達成をとりまく近年の研究状況をレビューすることができた。 二点目の学校効果については、TIMSSデータの特徴を生かし、学校の組織文化や教員の資質、学習指導時間や宿題時間など豊富な変数をモデルに含め、それらがどの程度学力の分散を説明しうるのかを検討できた。それにより、一見学校レベルのSESの階層効果に思われたものの一部は、こうした学校組織や教育実践の影響によって媒介されていることが明らかになった。しかし同時にそれだけでは説明しきれない学校SESの効果も残り、このことによって一つのデータを用い、階層要因と学校効果の両者を同時に考慮することの必要性を訴える論文を執筆する契機となった。私立中学の学校効果に焦点を当てた研究でも、トラッキングに関する先行研究を丁寧にレビューし、方法論的にもマッチングや交互作用などを用い、問いに対して適切な知見を導き出すことができた。 三点目の国際比較については、アメリカ社会学会のラウンドテーブルにて、日本を含む多国間の生徒の教育意識や教育関与が、その国の教育システムや学校コンテクストによってどのように異なるのかを報告した。また日本社会学会において、階層が学力を経由して教育期待に及ぼす影響を検討することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、とくに2016年度は、査読つき学会誌への投稿を中心に行っていく。2015年度は学会報告を多く行い、国内外で貴重な助言を得ることができた。またディスカッションペーパーを含めた論文を3本執筆することができたが、今後はこれらの成果を集中してまとめ、関連分野の主要雑誌に掲載される水準の論文を複数執筆していきたい。学会報告は、9月の日本教育社会学会、および2017年3月頃米国アトランタ州にて開催予定の米国比較国際教育学会での報告を主なものとし、それ以外の労力は論文執筆のために費やしたい。 1990年代後半以降の学力の規定要因の経年変化についての論文は、すでにディスカッションペーパーにまとめたものについて、先行研究の理論的、政策的、実証的知見をより丁寧にレビューして統括し、日本研究の知見も含めながら英語論文としての投稿をめざす。私立中学の効果についての論文は、第一稿がほぼ出来上がっており、今後分析結果について、その効果の内実がどのようなメカニズムによるものなのかについての補足分析を追加した上で、近日中に投稿予定である。主に公立学校を対象とした学校効果の研究についても、2016年5月10日締切の教育社会学研究への投稿をめざし、現在論文作成中である。
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Causes of Carryover |
(理由)前年度より、若干の差額を繰り越すこととなった。この理由は、物品が想定よりも安価に調達できたことと、2016年3月の国際学会への参加をスケジュール上見送ったことにある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
(使用計画)平成28年度の米国学会への参加費用に充てたいと考えている。
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