2016 Fiscal Year Research-status Report
国際比較にみる日本の学力格差の構造の解明―差異化と平等化のバランスに着目して
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26780482
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森 いづみ 東京大学, 社会科学研究所, 助教 (30709548)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 学力 / 学校間格差 / 社会経済的地位 / 私立学校 / TIMSS |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代日本における学力格差のあり方を、経年変化および国際比較の視点から実証的に明らかにすることで、日本の教育システムについて理論的、かつ政策的示唆を提示することを目標としている。2016年度は、第一に公立・私立の違いを考慮した学校間の学力格差の内実、第二に学力と教育期待に関する長期的な変化について主に研究を進めた。 第一に、2011年のTIMSSデータを使いて日本の中学2年生を対象に分析を行った結果、生徒の数学学力に対する学校レベルの集合的な社会経済的地位(school SES composition)の影響は、一連の学校環境に関する変数を考慮した場合、公立・私立それぞれで有意な影響が見られないことが分かった。これまでの分析では、学校環境変数を十分に統制しない状況では学校間の学力格差が大きいという知見が得られていた。しかし、学校環境変数を統制した上では、日本の公立学校間・私立学校間の学力格差は、学校環境の違いによって説明しきれるということが分かった。ただし、公立と私立を分けずに分析を行った場合、学校間の学力格差は学校環境だけでは説明しきれず、残るこうした格差は、似たような境遇の生徒が集まっていることによる何らかの影響であることが推察された。 第二に、1980-81年に行われた第2回国際数学教育調査(SIMS)のデータを分析し、当時13歳であった生徒の学力と教育期待、教育意識が、父親の職業や学歴とどのような関連を持っていたのかを分析した。その結果、いずれの関連もあまり強いものではなく、とくに数学の有用性といった学業意識については、階層差がほとんど見られなかった。こうした80年代初頭の状況を検討することで、2000年以降の学力や学習意欲の格差をめぐる状況をより長期的な視野から検討するための視座を得たといえる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
三年目の進捗状況として、研究実績の概要で述べた1)学校間の学力格差と2)経年変化については、精力的に研究を進めることができたと考えている。1については、昨年度TIMSSデータを用いて明らかにした点から一歩進み、公立学校と私立学校を分けることで、学校レベルのSESの影響と、学校組織や教育実践の影響それぞれのメカニズムをより綿密に明らかにすることができた。2については、80年代のSIMSデータを分析することで、昨年度行った60年代のFIMSデータを用いた分析と接続ができ、さらに今後90年代後半以降の分析を行うための足がかりとなった。 しかし、以下の二点で進捗がやや遅れていると考える。第一に、査読つき論文の投稿である。学会報告では有意義なフィードバックを得ることができているが、より精緻な分析を追及するあまり、投稿論文の作成が後手に回っている。第二に、国際比較を生かした分析である。今年度は日本国内に特化した学会報告や論文作成を行ったため、国際比較の中での日本の位置づけを検討することは今後の課題となっている。ただし、2017年3月に参加した米国の比較国際教育学会では、国際データの分析手法に関するワークショップに参加して有意義な情報を得るなどして、ひきつづき問題関心や分析手法についての探求は続けている。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度となる今年度は、昨年度と同様、査読つき学会誌への投稿を中心に行っていきたい。これまでの研究の仕上げとして、学力格差の経年変化や、公立・私立の違いを考慮した学力格差の内実についての論文を仕上げて発表したい。また、一昨年まで分析を行ってきたFIMSおよびSIMSデータの分析に加えて、同様の枠組みでTIMSSデータを分析することを通じて、1960年代から80年代を経て現代へとつながる長いスパンでの学力や階層、教育意識の変化についても分析して論文にまとめたい。 さらに、国際比較の視点として、日本と韓国の二国間における階層と教育期待の関係について、2017年6月の日本比較教育学会で報告予定である。また、2017年8月に米国で行われる世界社会学会・階層と社会移動部会(RC28)では、日本の私立学校の効果に関する報告を行う予定である。こうした場でフィードバックを得ることなどを通じ、国際比較の中での日本の学力格差の特徴について明らかにしていくことが目標である。
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Causes of Carryover |
前年度より、若干の差額を繰り越すこととなった。この理由は、物品が想定よりも安価に調達できたことにある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の米国学会への参加費用に充てたいと考えている。
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