2017 Fiscal Year Research-status Report
国際比較にみる日本の学力格差の構造の解明―差異化と平等化のバランスに着目して
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26780482
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森 いづみ 東京大学, 社会科学研究所, 准教授 (30709548)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 国・私立中学 / 進学期待 / 自己効力感 / TIMSS / PISA / 東アジア / 階層 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代日本における学力格差のあり方を、経年変化および国際比較の視点から実証的に明らかにすることで、日本の教育システムについて理論的・政策的示唆を提示することを目標としている。2017年度は、第一に国・私立中学への進学が生徒の進学期待と学業上の自己効力感に及ぼす影響について検討した。「国際数学・理科教育動向調査」(TIMSS)データを用いて、国・私立中学に進学したことによる因果効果をより積極的に検証するために、傾向スコアを用いた分析を行った結果、国・私立中学へ進学した生徒は、公立に進学した類似の特徴をもつ生徒と比べて進学期待が高まりやすく、とくに階層の低い生徒の進学期待が高まりやすいことが分かった。また、国・私立中学へ進学すると学業的な自己効力感が弱まりやすく、とくに学力の高い生徒の学業的な自己効力感が弱まりやすいことが分かった。本論文で注目した国・私立中学というのは、より大きな研究課題との関連で言えば差異化を志向する教育制度設計にあたるものであり、日本国内におけるそうした教育システムの違いが生徒の学業的側面に及ぼす影響を明らかにした点に意義がある。 第二に、日本と韓国における教育期待と階層の関係について、「OECD生徒の学習到達度調査」(PISA)データを用いて比較を行った。その結果、1)日本と比べ韓国の教育期待の水準は全般的に高く、親学歴や学力による差も日本より小さいこと、2)中学から高校への移行にしたがい、とくに韓国で親学歴や学校種別による差が顕在化すること、3)日本では普通科の生徒の親学歴や教育期待のばらつきが大きいが、韓国では普通科の生徒の教育期待は比較的均質である一方、実業科の生徒の教育期待が一様に低く、ばらついていることが分かった。本稿の分析により、教育システムのどの段階で差異化を行うかによって生徒の教育期待やその階層差に違いが出ることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
四年目の進捗状況として、研究実績の概要で述べた1)国・私立中学の効果と、2)教育期待と階層の日韓比較については精力的に研究を進めることができたと考えている。1については、前年度までの研究成果を生かし、日本の国・私立中学への進学が,生徒の在学中の学業面に対して,正と負の両方の効果をもつ可能性を実証的に明らかにできた.この成果を国際学会で報告した上で、和文の査読つき論文として出版した。2については、韓国の普通科高校間における平準化政策のもとで、その学校間の教育期待の格差が小さくなっていること(逆に、日本の普通科高校間の学校間格差は相対的に見れば大きいこと)、他方で、平準化政策の適用されない韓国の実業高校には、社会経済的に不利な生徒が集まりやすいことなど、教育制度設計と格差のあり方を考える上で日本にとっても有益な示唆を提示することができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の後半は産休・育休により研究を中断したため、今後は研究期間を延長し、来年度以降も延長して残りの研究課題を遂行する。残された課題は、これまでの成果のうち学会報告を行ったものを中心に、研究論文としてまとめることである、主に下記三つのテーマを形にする予定である。第一に、日本における学力格差の経年変化を明らかにした論文について。第二に、日本における学校間格差の内実を、学校レベルの社会経済的地位の影響と、学校組織や教育実践の影響それぞれのメカニズムを含めて明らかにした論文について。第三に、学力や教育期待の日本的特徴を国際比較から明らかにした論文について。可能ならばこれらを既発表論文と合わせ、復帰後に報告書にまとめたい。
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Causes of Carryover |
(理由)前年度より、若干の差額を繰り越すこととなった。この理由は、産休・育休により研究期間を半年間中断したためである。 (使用計画)平成30年度以降の報告書刊行費にあてたいと考えている。
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