2019 Fiscal Year Research-status Report
国際比較にみる日本の学力格差の構造の解明―差異化と平等化のバランスに着目して
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26780482
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
森 いづみ 東京大学, 社会科学研究所, 准教授 (30709548)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 日本 / 学力格差 / 公立学校 / 私立学校 / 国際学力調査データ |
Outline of Annual Research Achievements |
2019年度の研究実績としては,国際学力調査データを用いて,学力格差に及ぼす家庭と学校の影響を区別するための分析を行った.日本の学力研究は,この間に顕著な進展を見せており,国内の有力な研究者や研究グループによる成果も次々と出始めている.そうした中,日本の義務教育段階の学力格差を論じる際,学力に及ぼす家庭と学校の影響を区別し,それを国際的な視点から論じた研究はまだ不足している.しかし,家庭背景が学力に及ぼす影響を指摘する際に,学校を経由した影響をできる限り区別して論じることは,学力格差の全体像を解明するための一つの有効な視点となろう.この点への理解を深めるため,日本全国の中学2年生が層化二段抽出法を用いてサンプリングされているTIMSS(国際数学・理科教育動向調査)のデータを用いて,日本を含む各国における生徒間や学校間の学力分散,マルチレベル分析や相関分析を行った結果,日本の公立中学校では家庭の不利と学校の不利の重なりが相対的に小さいことが推察された.とくに,私立中学を区別することで分析結果が大きく変わることが分かった.本分析から示唆されるのは,学力「格差」とは、どの切り口で見るかによっても,観察される格差の内容や大きさが違ってくるという点である.たとえば日本の中学段階に関しては,とくに私立を除いた場合,国際的に見ても学校間格差は小さいが,各学校内の家庭背景によるSESの影響はそれなりに大きい.他方で,学校平均の社会経済的指標(学校SES)と学校環境に関する各指標との相関を見る限り,日本では他国と比べて,その相関が弱い(=家庭背景の影響によらず,一定の学校環境が保たれている)傾向がうかがえた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
育児中のため,子どもの体調等に応じて予期せぬ対応の必要性が生じていることに加え,昨年度半ばの研究再開以来は業務や教育のエフォートも重なり,思うようなペースで研究が進められていない.また,新型コロナウイルスの感染拡大により,年度末の3月に米国で報告予定であった国際学会(CIES2020)の現地開催が中止となり,予定していた成果報告ができなくなったことも理由である.
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Strategy for Future Research Activity |
残された課題は,これまでの成果のうち学会報告を行ったものを軸として,研究論文の形で成果を出すことである.本年度の学会報告の内容にもとづき,日本における学校間格差の内実について,国際的な視点も踏まえつつ,学校レベルの社会経済的地位の影響と,学校組織や教育実践の影響それぞれのメカニズムを考慮して解明した論文を発表したい.
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Causes of Carryover |
(理由)前年度より,若干の差額を繰り越すこととなった.この理由は,新型コロナウイルスの感染拡大により,年度末の3月に米国で報告予定であった国際学会(CIES2020)の現地開催が中止となり,予定していた成果報告ができなくなったためである. (使用計画)令和2年度の学会報告費あるいは報告書刊行費にあてたいと考えている.
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