2014 Fiscal Year Research-status Report
自閉症スペクトラムを併せ持つ聴覚障害児の言語的特徴と支援方法の検討に関する研究
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26780513
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Research Institution | Tsukuba University of Technology |
Principal Investigator |
大鹿 綾 筑波技術大学, 障害者高等教育研究支援センター, 日本学術振興会特別研究員(PD) (10610917)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 聴覚障害 / 自閉症スペクトラム / 言語的特徴 / 支援方法 / 集団遊び |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では自閉症スペクトラムを併せ持つ聴覚障害児の言語的特徴を分析し、効果的な指導方法について検討した。 26年度は2事例について取り上げ、1年間の継続指導を行った。1事例目a児はろう学校5年生男児であり、自閉症スペクトラムの診断がある。主たるコミュニケーション手段は身振りを含んだ手話である。WISC-3ではVIQ61に対しPIQ99と正常範囲であり、知覚統合107と視覚優位であった。知的な遅れはないものの言語を介したコミュニケーションに課題があり、こだわりや興味の偏りもあるため、ルールを守れる一方、集中すると途中で止められない様子もあった。PVT-R、J.COSS、日常の行動観察からコミュニケーションの前提となるソーシャルスキル、注意記憶を向上させること、ことばのイメージを豊かにしながら語彙を増やすことを指導目標とした。 b児もろう学校5年生男児であり、自閉症スペクトラムの診断を持つ。コミュニケーション手段は手話であるが、年度中に人工内耳埋め込み手術を行い、現在リハビリ中であり予後は順調である。WISC-3ではVIQ79、PIQ83で注意記憶、処理速度は100を超えていた。PVT-R、J.COSS、日常の行動観察から語彙のイメージを豊かにすること、一問一答形式の会話になりがちであることから、5W1Hを意識して会話のキャッチボールを行えるようにすることを指導目標とした。 また、併せて個別指導とともに、集団遊び活動も行った。2人は共に集団遊び自体にはスムーズに参加できるものの、自分の意見を言えなかったり逆に無理に意見を通そうとしたりするといった様子が見られた。そこでリーダーシップを発揮しながらチームで楽しむことができるように支援した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
a児へは計15回の指導を行った。SSTでは、「怒りメーター」を活用して自分の気持ちをコントロールしたり相手に伝えたりする取り組みを行った。結果、状況に合わせて多様な行動パターンを取ることができた。また、相手が話している時には自分の行動を一旦止めて相手を見ることなども指導した。語彙についてはおよそ何語文の長さなら最後まで集中して情報をつかむことができるかを確認し、その中で位置関係を表す言葉を指導した。例えば「~と~の間」や「近く」など曖昧さのある言葉は理解が不十分であったり、対面で話していると左右が逆になり、相手の目線に立って位置を把握することが難しい様子が見られた。活動を続ける中で6語文程度の長さであれば手話から情報を取ることができたが、位置関係を表す言葉の理解は十分なレベルまで達することは出来なかった。集団遊び活動では、友達にちょっかいを出してケンカになってしまうことがあったが、活動の流れを視覚的に提示するなどわかりやすくしたことで集中して取り組むことができ、ちょっかいを出すことが減少した。 b児へは計14回の指導を行った。絵カード的な知識はあるものの語のイメージが乏しく、実際の生活で活用しきれない様子があったため、カテゴリー分けや連想ゲーム、3ヒントクイズなどを行った。b児は学習の定着が比較的よく、前回取り上げた言葉を次回使うことができるなど成長が見られた。また、会話が一問一答になってしまいやすいことから、5W1Hを事前にワークシートにまとめ、それを基にスピーチや自由会話を行った。普段の生活でも表情や感情表現が豊かになってきたこともあり、5W1Hだけでなく、自分の気持ちなども交えて話すことや、自分から質問したりすることが増え、大きな成長が見られた。集団遊び活動では、リーダーとして話し合い活動をまとめる経験をさせた。 以上の成果等に基づき、上記の通りの達成度と自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度も引き続き、a児、b児への介入を行っていく。a児は言語の基礎となるソーシャルスキルや記憶の面にも自閉症スペクトラムの特徴的な課題を大きく示している。土台部分をしっかりと固めていくことの重要性が感じられるところなので、今後もコミュニケーションの基礎を育てたい。また、位置関係における視点の転換が苦手であるため、手話の読み取りに曖昧さがあることが示された。会話の内容に齟齬が生じてきたときには、書いて視覚的に残すということが効果的であったが、語彙の少なさもあるa児にとってどのような方法が最も効果的であるのか、今後更に検討していきたい。また、集団遊び活動の中では親切のつもりであっても強引な方法であるために相手とトラブルになってしまう様子がまだある。自分の気持ちをうまく相手に伝える方法、思いが通らなかった時にどうするかも考えていきたい。 b児は現在、ことば、心ともに大きく成長している時期であると思われる。5W1Hメモを活用した会話は非常にスムーズになってきたが、一方で型にはまり過ぎてしまうことが懸念される。基礎の力がついてきたことを確認しつつ、より相手を意識した会話を続けることができるよう自由会話への取り組みを行っていきたい。併せて語彙ドメインについては26年度は数を増やすことよりもイメージを広げ質を豊かにすることに重点を置いてきた。27年度は語彙の数自体を増やしていくことも目標としたい。人工内耳を挿入し、聴覚活用がどこまでできるのかまだ未知数ではあるがあらゆる手段を積極的に活用していきたい。また、集団遊び活動では、6年生として話し合い活動のまとめ役を期待している。どのような支援があれば自分の意見を言うことができるのか、また他児の意見を理解し、取り入れることができるのか支援方法を考えていきたい。 27年度は新たに2名程度対象児を増やし、年間15回程度の指導を行う予定である。
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Causes of Carryover |
繰越額は2,000円程度であり、概ね当初計画通りに使用した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度分と合算し、概ね当初計画通り使用することとする。
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Research Products
(11 results)