2015 Fiscal Year Research-status Report
自閉症スペクトラムを併せ持つ聴覚障害児の言語的特徴と支援方法の検討に関する研究
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26780513
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Research Institution | Tsukuba University of Technology |
Principal Investigator |
大鹿 綾 筑波技術大学, 障害者高等教育研究支援センター, 日本学術振興会特別研究員(PD) (10610917)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 聴覚障害 / 自閉症スペクトラム / 言語的特徴 / 支援方法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、自閉症スペクトラムを併せ有する聴覚障害児の言語的特徴を分析し、効果的な指導方法を検討した。27年度は26年度から継続して同様の2事例について継続的介入を行った。 ろう学校6年生となったa児には、文法的な正しさを求めると他者へ働きかける意欲を失う様子や、様々な状況下、手話の通じる人がいない環境であっても問題解決を図ろうとしてほしいという保護者の願いがあった。そこで文法的に正しい日本語でないとしても、補助的な手段を用いながら状況に合わせたコミュニケーションを自ら図ろうとすることをねらいとした。生活の中で想定される困難場面を設定し、「誰に」「どのように」助けを求めるのかをロールプレイ等で確認し、ヘルプブックを作成していった。a児もイラストを自ら書いたり、単語の羅列であっても筆談をしたりと積極的に関わろうとするようになっていった。生活場面での般化も見られた。 同じく6年生のb児は、昨年度までの指導で定型文を活用した会話はスムーズになっていた。一方で自分の気持ちの表現、相手の気持ちの理解が不十分で、友達との関係がスムーズにいかない様子が見られた。気持ちを表す語彙自体が習得、整理されておらず、ASD特有の困難さがことばの獲得に特徴的な偏りを生じさせている事が示唆された。そこで気持ちを表す語彙の拡充、それを用いたSSTを行った。ターゲット語をテーマとしたロールプレイをあらかじめ録画しておき、タブレットを用いて見せた。当初は実際にロールプレイを見せていたが、画面上の方がより適切な状況で演じられること、注目させたい場面で止めたり、拡大したりできること、情報が限られて集中しやすいことなどからタブレットの活用の方が有効であった。今まであいまいな理解であった語彙についても整理することができ、特に自分の気持ちの表現が豊かになり、ストレスを溜めてしまい突如暴れてしまうようなことはなくなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
26年度に引き続き、2事例について継続的な介入ができ、効果的な介入方法について検討することができた。 a児については、保護者との相談の元、文法的な正しさに拘らない、より広義での言語コミュニケーションについて検討することができた。聴覚障害児教育において書き言葉の習得は非常に重要な課題であるが、対人関係の困難さを示すASDを併せ持つ彼らに対しては、まず相手とコミュニケーションを取ろうとする積極的な意欲を育てること、また本人が使うことのできる補助的な手段を有効活用することが効果的であったと考える。a児は生活の中でも自ら指導の中で作成したヘルプブック(イラストやホワイトボードをまとめたもの)を使おうとする場面が認められ、行動の般化も見られた点が有意義であった。 b児については、自ら手話表現があり、理解しているように見えた「感情を表す言葉」について取り上げた。丁寧に確認すると理解がずれていたり、曖昧であったものも多く、他者との相互理解が十分に成立していなかったことが分かった。感情語を代表とする抽象語については、聴覚障害児が苦手とすることはこれまでも指摘されているところであるが、心情理解に苦手さを示すASDを併せ持つ場合、それがさらに顕著となることが示された。また、指導の際に単なるロールプレイを使うのではなく、あらかじめ録画したものをタブレットで見せることも効果的な指導方法であった。情報の取捨選択や注意の焦点化に困難のあるものについてはICT機器の活用も効果的であるかもしれない。指導後には介入前に見られた、突然ストレスを爆発させるような行動はほとんどなくなった。代わりに自分の気持ちをb児なりに相手に伝えようとしたり、帰宅後保護者に話をすることでストレス回避をしている様子が見られるようになった。 以上の成果より、おおむね順調に研究が進捗していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで対象としてきた2事例に対してはNPO法人の活動を活用して介入の場を設けてきたが、中学部進学を機に継続的な介入は修了となった。28年度からは新たに同活動に参加している2事例程度を対象として研究を進めていく予定である。年間15回程度の介入指導を行うことを計画している。 現在予定している事例については、ASDと併せてADHD傾向のあるろう学校5年生児童1名、対人関係が消極的であるろう学校6年生児童1名である。彼らについては保護者の同意が得られており、併せてこれまでも継続的な関わりがあるため長期的な変化も検討することができると考える。また、これまで事例的な検討を行ってきたが、最終年度に向けてASDを併せ有する聴覚障害児全体を概観した考察も行っていきたい。
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Causes of Carryover |
繰越額は22000円程度であり、少額である。概ね当初計画通りに予算執行した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
28年度分と合算し、計画通りに執行する予定である。具体的には、介入指導に必要な教材、検査器具等の購入を行う。また、研究最終年度であることから、学会での発表、論文投稿等を積極的に行う予定であり、そのための費用とする予定である。
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Research Products
(9 results)