2014 Fiscal Year Research-status Report
スピン偏極STMによる磁性ナノドットの磁化反転ダイナミクスの直接観測
Project/Area Number |
26790004
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
宮町 俊生 東京大学, 物性研究所, 助教 (10437361)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 走査トンネル顕微鏡 / ナノ磁性体 / X線磁気円二色性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では原子層窒化鉄(FeN)ナノ磁性体の成長様式を解明し、極低温スピン偏極走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて原子分解能で表面構造および電子・磁気状態の詳細を調べ、FeNナノ磁性体の磁区構造を操作・制御することを目的とする。本年度は、銅基板Cu(001)上に成長させたFeNナノ磁性体の表面構造および電子・磁気状態の解明に重点的に取り組んだ。 まず、FeNナノ磁性体の構造の成長条件依存性を調べた。STM観察の結果、立方相構造(Fe4N)を有する単原子層Fe2Nナノ磁性体がCu(001)基板に成長し、窒素吸着量、鉄蒸着量、試料加熱温度の精密制御により、形状(円形~四角形)およびサイズ(ナノドット~薄膜)を制御できることがわかった。また、低温加熱の場合においては、Fe2Nナノ磁性体に加え、これまでに報告例のない六方晶構造を有するFeNナノ磁性体の作製にも成功した。 また、Fe2Nナノドットの表面構造、電子状態に関しても興味深い実験結果が得られた。Fe2Nナノドットは表面でp4gm(2×2)構造を示すことがこれまでに報告されていたが、STM形状像はSTM探針-ナノドット間の距離が遠ざかるにつれp4gm(2×2)構造からc(2×2)構造に変化することがわかった。理論計算および走査トンネル分光法によるFe2Nナノドットの電子状態測定の結果より、観測された形状像の変化は探針から放出されたトンネル電子のナノドットへのトンネル過程が探針-ナノドット間の距離によって異なるためと考えられる(電子軌道選択トンネル過程)。 さらに、FeNナノ磁性体の容易磁化方向やキュリー温度等の磁気特性を明らかにするためX線磁気円二色性(XMCD)測定を行った。XMCD測定の結果、Fe2N単原子層膜は強い面内磁気異方性を示し、残留磁化の温度依存性から比較的高温領域においても強磁性が維持されていることを確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画の中心であるFeNナノ磁性体の成長様式、表面構造および電子・磁気状態を解明する過程で多くの研究成果を挙げることができた。 まず、本研究の参照試料となるCu(001)基板上のFe薄膜および原子層窒化銅(Cu2N)島の表面構造および電子状態を極低温STMにより明らかにした。Fe薄膜に関してはCu(001)基板のステップ密度にその表面構造や電子状態が大きく依存することを明らかにし、理論計算との比較によりfcc構造を示すFe薄膜の磁気構造を実空間において世界で初めて明らかにした。Cu2N島に関しては量子閉じ込め効果のサイズ依存性の詳細を解明した。これらの研究成果については国内、国際学会で発表を行い、現在学術雑誌に論文投稿中である。 成長様式のみならず、Fe2Nナノドットの表面構造、電子状態に関しては、STM形状像がp4gm(2×2)構造とc(2×2)構造の間を可逆的に変化することを見出し、理論計算とSTMによる走査トンネル分光法を組み合わせた多角的な研究により、STM探針-ナノドット間の距離に依存した電子軌道選択トンネル過程に起因することを明らかにした。得られた研究成果については国内、国際学会で多数発表を行い、現在学術雑誌に論文投稿中である。また、本研究を遂行する過程で初めて観測された六方晶構造を有するFeNナノ磁性体についても国内学会で発表を行い、現在学術雑誌に論文投稿準備中である。 また、Fe2Nナノドットおよび単原子層膜のXMCD測定を行うことにより、容易磁化方向や磁気モーメント、キュリー温度等の磁気特性のサイズ依存性を明らかにすることができた。本測定で得られた結果を基に、次年度の研究計画の中心であるスピン偏極STM測定を円滑に進めることができると考える。得られた研究成果については今後、国内、国際学会で発表を行うとともに、学術雑誌に投稿する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度(平成27年度)は当初の研究計画に従い、極低温スピン偏極STMによるFeNナノ磁性体のナノスケール磁気構造観察、磁化反転機構の解明および磁化反転ダイナミクスの直接観察に取り組む。スピン偏極STM測定や磁化反転ダイナミクスの直接観察を遂行するのに必要なFeNナノ磁性のスピン偏極準位、容易磁化方向およびキュリー温度は、本年度に行ったFeNナノ磁性の走査トンネル分光測定およびXMCD測定から明らかになっている。 スピン偏極STM測定ではSTM探針-FeNナノ磁性体間を流れるトンネル電流と電圧を独立制御できる。よって、スピン偏極電流注入量の変化に伴う磁化反転現象(スピントルク効果)や電場の変化に伴う磁化反転現象(電気磁気結合)を別個に評価することができる。FeNナノ磁性体の磁化反転は外場(スピン偏極電流、電場)の印加前後にスピン偏極STMによる磁気イメージングを行うことにより確認する。また、トンネル電流と電圧を変化に伴い、STM探針-FeNナノ磁性体間の距離も変化することから、本年度明らかになったFeNナノ磁性体の電子軌道選択トンネル過程がその磁気構造や磁化反転に与える影響も詳細に調べる。FeNナノ磁性体の磁化反転ダイナミクスは磁化反転前後のスピン偏極STM磁気シグナルの実時間トレースにより観察する。本年度明らかになった単原子層FeNナノ磁性体の成長条件依存性により、FeNナノドットの密度が変化した場合や、薄膜に形状が変わった場合に上記の磁気特性にどのような変化が現れるかを調べ、磁化反転に必要な電流や電場および磁化反転速度のドットサイズ、形状依存性を明らかにする。
|
Causes of Carryover |
本年度の研究計画の中心であるFeNナノ磁性体の表面構造および電子・磁気状態の解明のために、ターボ分子ポンプ(温度可変STM装置の試料導入槽の改良、設置のため)、ウォーブルスティック(測定槽での試料輸送効率化のため)、高圧電源(試料加熱およびスピン偏極STM磁性探針作製のため)の設備導入を予定していたが、現有設備(極低温STM装置および試料準備槽)で効率的に研究計画を遂行できたため、次年度使用額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の研究計画の中心である、FeNナノ磁性体の化反転機構の解明および磁化反転ダイナミクスの直接観察を遂行するためには高い時間分解能を有する測定装置の新たな導入が必要不可欠である。よって、スピン偏極STM磁気シグナルの実時間トレースの高速測定を遂行可能にする新たなSTMコントローラー、またはオシロスコープを、翌年度分として請求した助成金と合わせて平成27年度に導入する予定である。また、消耗品(金属単結晶および純金属)についても次年度に購入予定である。
|
Research Products
(8 results)