2014 Fiscal Year Research-status Report
超高速時間分解電子回折法における原子散乱因子の再検討
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26790049
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
成瀬 延康 北海道大学, 高等教育推進機構, 特任助教 (30350408)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 超高速時間分解電子回折法 / 金属 / 光誘起構造相転移 / 電子回折法 / 光物性 / 非平衡格子系動力学 / 非平衡溶融 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、超短パルス光による物質の励起で発生する非平衡の電子状態が、回折法における原子散乱因子(散乱能)、つまりは時間分解電子回折強度に与える影響を実験・計算両面から定量評価することを目的としている。また、これらを通し、高密度励起下での超高速時間分解電子回折法の標準解析手法の確立をもねらっている。 本年度、我々は、試料内の多重散乱効果を抑えた実験が可能な相対論的電子パルス(3MeV)を用いて、Auの単結晶(11nm厚)を対象にした時間分解電子回折法(時間分解能200fs、ポンプ光385nm、励起密度1、27、41、108mJ/cm2)によるシングルショット測定を行った。その結果、Bragg回折強度の減衰に明瞭な光励起密度依存性がみられ、高励起密度では回折強度が急速に減衰する様子が観察された。従来の回折理論を用いた場合、格子温度の上昇は一般にDebye-Waller(DW)因子を用いて記述される。DW因子は、しかし、結晶秩序を仮定した概念であり、結晶秩序の崩壊に伴う過程を扱うには無理がある。そこで、我々は、理論グループと共にTTMに基づいた分子動力学計算と第一原理計算とを組み合わせた理論計算を行った。その結果、41mJ/cm2までの励起強度では、実験で得たBragg回折強度の変化を統一的に再現できた。一方、108mJ/cm2 の励起密度の場合には、低励起密度下での理論計算と同様な方法では、実験におけるBragg回折強度の急速な減少を再現できなかった。そこで、計算で高励起密度下でのAuポテンシャル面の変化を考慮した結果、Bragg回折強度変化が再現できた。これらの事実は、高励起密度での電子励起が格子の安定性に影響を与えることを強く示唆しており、「非熱的溶融」が金属でも起こることを支持する結果である。励起直後の物質にポテンシャルの変化が見られることがわかったことは極めて大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、以下に示すようにフェムト秒時間分解電子回折実験・および計算両面から研究目的を遂行する計画を立てていた。このうち、実験面については終了しており、計算面においても2大課題の内ひとつは終了した。残すは一つの課題だけとなっている。 実験:相対論的電子パルス(3MeV,時間分解能150fs)を用いたフェムト秒時間分解電子回折法により、高密度励起条件で貴金属薄膜(Au)、半導体薄膜(Si)の結晶溶融過程を追跡する。非可逆変化のため1電子パルス(シングルショット)方式で行う。 計算: 1)二温度モデルと分子動力学法を組み合わせた理論計算から、励起後の原子位置を計算し、実験で得た回折強度と計算でのそれとを比較する。これにより、強励起にともなう回折強度への(原子間)ポテンシャル変化の影響、さらには溶融過程の格子系動力学を明らかにした。残りの課題は、2)従来型電子回折強度計算法を改良し、実験で得た回折強度の時間推移を再現・比較することである。従来の電子回折計算において原子散乱因子を変化させ、強励起に相当するポテンシャル変化を原子散乱因子のfカーブの変化として明らかにすることを目標としている。したがって、研究の全体像の内、80%程度は終了している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、フェムト秒時間分解電子回折実験・および計算両面から研究目的を遂行する計画を立てていた。このうち、実験面については終了しており、計算面においても2大課題の内ひとつは終了した。残すは一つの課題だけとなっている。既に終了した理論計算手法は、溶融過程で結晶があらゆる状態であっても適用でき、解析手法の適用範囲も広く、一里塚といえる。しかし、解析手法としては第一原理計算や分子動力学計算にかなりの時間を要すことから、実験の研究者が容易に研究に踏み込めない。そこで残りの課題として、従来の電子回折法における回折強度計算を発展させる計画を考えている。具体的には、一から計算用ソフトウエアを開発するのではなく、透過電子回折装置用の市販のソフトウエアを原子散乱因子の時間変動として組み込んだ計算が可能となるよう改良する。計算時間は極めて短い。申請者は透過電子顕微鏡やこれらのソフトに精通しており、この計算手法を使った解析は申請者が行う。ただし、この方法の問題点は結晶の秩序構造が前提であり、低密度励起での回折強度との比較は良いが高密度励起下では、溶融する前の段階までしか追跡できない点である。しかし、今後、電子顕微鏡用ソフトウエア開発者と共同研究し、この問題に取り組むことを考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた一番の理由は、代表者の所属先が大きく変わった点にある。そのため、本来参加予定であった学会に不参加となり、計上した旅費の支出が無くなった点と、論文の投稿が間に合わなかった。異動先でも研究ができるよう、実験などを前倒しで行ったため、本来既に購入すべきPCやソフトウエア改良費用が計上できていない。また、異動手続きがあり、論文の投稿も遅れていいる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度、電子顕微鏡用ソフトウエア開発者と共同研究し、透過電子回折装置用の市販のソフトウエアを原子散乱因子の時間変動として組み込んだ計算が可能となるよう改良する。この透過電子顕微鏡ソフトウエアは商用ソフトウエアの改良を行うことで成し遂げるため、その改良費用を外注する予定である。計算時間は極めて短かくなるよう工夫する予定である。これら専用のソフトウエアを使用するのに専用のGPUを積むPCが必要であり、その購入費用、また、旅費、および研究成果発表にも用いる予定である。
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