2014 Fiscal Year Research-status Report
ZnO 系透明導電膜のキャリア輸送に対する構造の影響とその制御技術に関する研究
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26790050
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Research Institution | Kochi University of Technology |
Principal Investigator |
野本 淳一 高知工科大学, 公私立大学の部局等, 助教 (30711288)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 透明導電膜 / 酸化亜鉛 / マグネトロンスパッタリング / キャリア輸送機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、N型多結晶酸化亜鉛(ZnO)系透明導電膜の物性(導電性、透過性、耐湿熱性など)主支配因子は多結晶構造内の結晶子配列形態であると仮定し、薄膜成長初期の極薄膜層(膜厚は数10nm 以下)を設計的に制御することで、当該仮定の正否を実証的に明白化することにある。前記極薄膜はキャリア輸送機構を左右することから、Critical Layer(CL)と呼称し、設計指針及び具体的な成膜プロセスを実験及び理論の両面から、本研究成果を通して確立し、提案する。 初年度はAl添加ZnO(AZO)膜に焦点を絞った。第1に、キャリア輸送の観点から、従来技術(直流(DC)及び高周波(RF)マグネトロンスパッタリング(MS)の特徴と課題とを明白にした。第2に、従来技術枠内において上記課題を解決する技術(高周波重畳直流(RF/DC)-MS)を提案し、その効果及び課題を議論した。第3に、解決する技術として、独自技術なるCLの提案とその効果を検討した。 上記第1及び第2の成果は論文掲載となった(J. Nomoto et.al., Journal of Applied Physics Vol. 117, pp. 045304-1 (2015).)。該論文では、結晶子配列形態の決定因子として、(002)と(101)面の2つに焦点を絞り、その見知から、従来技術の共通点と相違点とを明白化した。「キャリア輸送阻害因子は(101)面の残存である」と立場を明確にし、上記解決策の効果を定量化した。薄膜構造とキャリア輸送機構との相関関係および定量化は国内外初である。 第3においては、2つの従来技術の長所を活かし、かつCritical Layerの設計指導原理を明白化したことに意義があり、その成果が広く認められた (野本他、2014年秋季応用物理学会:該報告において、第37回 応用物理学会講演奨励賞を受賞。)
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ZnO系透明導電膜は多結晶構造であるが故、高ホール移動度(mH)実現への解決策は、①粒界散乱寄与の低減、と②粒内キャリア移動度(mig)の増大、との両立である。 研究最終目標は、(ⅰ)独自の解決策の提案と(ⅱ)具体的な電気特性に対する数値目標とに分けられる。今期達成度は、(ⅰ)では 100%、(ⅱ)では77% と自己評価している。・該研究の目標値:mH= 50 cm2/Vs、粒界散乱寄与= 0、mig= 50 cm2/Vs・初年度の達成値:mH= 38.6 cm2/Vs、粒界散乱寄与= 0、mig= 38.6 cm2/Vs 具体的には下記の通りである。 DC-MSでは、長所として、高mig及び高キャリア密度の実現が挙げられる。課題として、低c軸配向性及び(101)面の残存に因る高粒界散乱寄与(=0.3)が挙げられ、その結果、高mHの実現が困難となる。RF-MSでは、長所として、高c軸配向性に因る低粒界散乱寄与(=0.01)が挙げられる。課題として低mig及び低キャリア密度が挙げられる。その結果、高mHの実現が困難となる。成膜電力比を最適化したRF/DC-MSは、長所として、DC-MSとRF-MSの長所の組み合わせの実現が挙げられる。課題として、(101)面の不完全消失が原因と考えられる粒界散乱寄与(=0.03)の残存と、膜のc軸配向性がRF-MSと比べると低い、ことが挙げられる。 上記課題を解決する独自技術なるCLの成果は次の通りである。該技術の特長は、DC-MSによる長所を維持しながらも、RF-MSの長所をもって、粒界散乱寄与の完全消失を実現させる、ことにある。RF-MSによる膜厚10 nm のCLを挿入したDC-MSによる AZO膜では、単一面(c面)の成長が観察され、mH =mig= 38.6 cm2/Vs、粒界散乱の寄与= 0(抵抗率2.32×10-4 ohmcm)の実現に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は、学術論文の件数が多いAZOを用いることで、CLの新規性とその効果とを明白化することが可能となった。次年度は最適化されたCLの発展として異なる不純物 (例えばGaやTi) が添加されたZnO系薄膜において、その添加量をパラメータとし、結晶子配列度と粒界散乱寄与の相関図を構築する。 古典論もしくは量子論的にモデル化された各種キャリア散乱とのフィッテイングを試みる。キャリア輸送機構モデルの構築には、研究協力者である山本哲也氏から量子論的観点から指導を仰ぐ。その結果を通して、仮説「多結晶薄膜におけるキャリア輸送機構の主支配因子は結晶子配列度である」の正否と正なる時の適用限界を明白にする。 初年度では、解決すべき課題として、粒内キャリア移動度migの増大、が挙げられる。解決策として、上記したAl以外の不純物の検討を考え、migを決める散乱因子を明白にすることを通して課題の解決を図る。 多結晶ZnO薄膜に対する真性欠陥をも含めたドーピング効果の系統的な研究は、極めて少なく、且つ何れも単結晶での電気的特性で議論されるキャリア密度とキャリア移動度との関係の枠内に留まる議論となる。この問題点を明らかにしたことが当方のJ. Appl. Phys.掲載の論文と自己評価している。本研究の波及効果は、多結晶薄膜でのドーピング効果を明白化であり、多結晶薄膜構造(ZnO膜表面、基板とZnO膜との界面)と薄膜特性(電気・光学)との関係が明らかにされよう。 最終年度は、上述した展望を基に、上記多結晶薄膜構造に対し、残留応力等のキャリア輸送に対する影響などを十分検討する基礎研究を強化する。これをもって、薄膜成長初期の極薄膜層(膜厚は数10 nm以下)を設計的に制御する本研究手法と従来の手法(GaNに対するAlNや、MgOに対するCrなど)との相違点を明確にする。
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Causes of Carryover |
初年度はAl添加ZnO膜に焦点を絞った。次年度は最適化されたCritical Layerの発展として異なる不純物 (例えばGaやTi) が添加されたZnO系薄膜において、その添加量をパラメータとし、結晶子配列度と粒界散乱寄与の相関図を構築する。即ち、薄膜の作製に多くの酸化物焼結体ターゲットが必要とされる。そのため、次年度の酸化物焼結体ターゲット購入費として約13万円を次年度の物品費として残した次第である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
【 物品費 】昨年度の残額約13万円に加え、本年度分として計上した助成金を合わせ酸化物焼結体ターゲットを複数購入予定である。また、薄膜の作製に必要不可欠である基板材料であるアルカリフリーガラス基板を複数購入予定である。成膜チャンバー内壁のブラスター処理も再現性よく薄膜を作製するためには必要不可欠であるため、実験装置維持費として計上している。【 旅費 】国内旅費及び外国旅費ともに本研究の成果発表のために計上している。【 謝金 】本研究の遂行や推進には、専門家招聘によるセミナーは有益である。そのため謝金を計上している。【 その他 】断面TEM観察及び、二次イオン質量分析法の設備は当方の研究環境にないため、外部評価委託費として計上している。
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Research Products
(8 results)