2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26790057
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
伊藤 哲 静岡大学, 電子工学研究所, 准教授 (70425099)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | スピン / 正孔 / 重ね合わせ / 量子井戸 |
Outline of Annual Research Achievements |
電子スピン重ねあわせ状態の形成には正孔スピン重ね合わせ状態が大きく寄与していると考えられるが,これまでの研究では正孔スピンが与える影響については議論されてこなかった.本年度は正孔スピンの生成と緩和過程の基礎的知見を得るために,共鳴励起時間分解測定および,k・p摂動計算によるバンド構造依存性の解析を行った. まず第1に,正孔スピン重ねあわせ状態の励起エネルギー依存性を議論するため,偏光時間分解PL測定を行った.GaAs/AlGaAs多重量子井戸(MQW)を測定に用いた.直線偏光レーザーパルスをMQW試料に照射しスピン偏極を形成し,ストリークカメラを用いて,偏光度の時間発展を,励起エネルギーを変化させ系統的に評価した.励起エネルギーが高エネルギー側に離れるにしたがって偏光度の初期値は徐々に減少し,ゼロに近づくことが観測された.正孔の重ね合わせ状態の解消・緩和には軽い正孔状態が寄与していることを示唆する結果を得た.また,ファラデー配置の磁場を印加することにより,直線偏光度が時間的に変動(歳差運動)したことから,直線偏光の起源がスピンであることを確認した. 第2に,PL測定よりも高精度な時間分解評価を行うために,ポンププローブ法測定系の構築を行い,直線偏光におけるスピン偏極とその緩和時間の測定を行った.PL測定と対応したMQW試料を用いて,直線偏光励起のスピン緩和時間の比較・評価を行った.励起パワーの増加により緩和時間が減少する点,量子閉じ込め効果の増加により緩和時間が増加する点において,PL測定と同様の傾向が観測された. 第3に,k・p摂動計算によるバンド構造依存性の解析により,励起エネルギーの変化により価電子帯状態の混ざり込みが変化することが分かった.正孔スピンの重ね合わせには価電子帯の構造が関係している事を示唆する結果を得た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
正孔スピン重ねあわせ状態を直線偏光測定を通して確認できた.この確認にはPL測定とポンププローブ測定の異なる時間分解手法を用いたが,両時間分解測定において,同程度の直線偏光度の緩和時間を観測された.また,磁場を印加した測定において,直線偏光度の時間的変動が観測された.これはスピンの歳差運動を表しており,直線偏光の起源がスピンの重ね合わせであることが確認できた.励起エネルギー依存性の測定により価電子帯の状態が直線偏光度に影響していることがわかった.これにより直線偏光は正孔スピンを反映していることも確認できた.これらの状態の確認のための価電子帯の計算も進んでおり,当初の予定通り,正孔スピン重ね合わせの評価が達成できた.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は正孔スピン重ねあわせにより形成されたスピンを用いて,スピンでスピンを操作する事を目標に研究を進める.具体的には結合量子井戸を用いた,無磁場でのスピン歳差運動の観測,価電子帯の計算による実験の検証,スピン間相互作用の見積もりを平行して行う予定である.
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Causes of Carryover |
申請額時に購入予定だったパルスピッカーが減額のため購入できなかったため,配分予算額から購入物品の再検討を行った.初年度には波長計と必要な光学部品の購入に当てた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は前年度の繰越金を利用してロックインアンプおよび,光学部品類の購入を行い,研究を進める.また,実験実施や発表のための旅費にも割り当てる予定である.
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Research Products
(4 results)