2014 Fiscal Year Research-status Report
高分子液体の熱流体潤滑に対するマルチスケールシミュレーション技術の開発
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26790080
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Research Institution | University of Hyogo |
Principal Investigator |
安田 修悟 兵庫県立大学, シミュレーション学研究科, 准教授 (70456797)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | マルチスケールシミュレーション / 高分子液体 / 粘性発熱 / レオロジー / 複雑流体 / ソフトマター |
Outline of Annual Research Achievements |
コロイド、高分子、液晶などの複雑液体は様々な工業製品に幅広く利用されている。複雑液体のマクロな移動現象とミクロな内部構造の状態を精確に予測・解析することができるシミュレーション技術を開発することは、工学的に重要な意義を持つ。本研究では、これまでに申請者等が開発したマルチスケールシミュレーション法をもとに、さらに実用的で複雑な現象に適用できるように拡張する。分子シミュレーションや流体シミュレーションでは対応できない実際の製品・機器のシステムサイズでの高分子液体の潤滑問題における流動・発熱・内部構造の関係のメカニズムを明らかにし、本手法の有効性を実証する。実際の製品開発などにおいて活用できる実用的なマルチスケールシミュレーションを開発することが研究の最終到達目標である。 本研究ではこれまでに申請者らが開発したマルチスケール法を拡張し、絡み合い系と液晶系の高分子液体の潤滑挙動を解析する。2年間の研究計画では、平成26年度におもに計算技術の拡張について取組む。これまでの運動量輸送についてのマルチスケール法をエネルギー輸送と密度変化を扱うことができるように拡張する。平成27年度は拡張したマルチスケール法を用いて絡み合い高分子系と液晶系に対する潤滑挙動の解析を行う。解析にあたっては、実際のシステムサイズを想定した大規模計算を実行する。研究計画の推進にあたって代表者はすべての行程において中心的に関わるが、ソフトマターの計算科学において深い知識を有する研究者と大規模計算の実行における専門的技術を持った研究補助者の研究協力者2名を研究体制に加えることで、研究計画を効率的かつ多角的な視点を持って推進できる研究体制を敷いてる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、マイクロメートル程度のスケールでおこる高分子液体の複雑な熱流動現象と高分子液体の内部構造のダイナミクスを同時に解析することができるマルチスケールシミュレーション法を開発し、具体的な問題の解析を通してその有効性を実証することを目的としている。 高分子液体のような複雑な内部構造を有する液体は、粘性が大きいため、高速に駆動する部分を有するマイクロ装置においては、高速な圧縮やせん断による粘性発熱の問題が重要となる。しかし、単純な液体と異なり、高分子液体では、温度上昇の際に、粘性によるエネルギー散逸と同時に高分子鎖の内部構造の変化によるエネルギー変化も考慮する必要があるため、その現象の理論モデルの構築が非常に困難である。この難問に対して、ミクロな分子シミュレーションをもとに、マクロなスケールでの熱・運動量輸送の物理法則に矛盾を生じないマルチスケールシミュレーションのモデルを構築することが本研究における最重要課題である。 現在までの研究においては、マイクロ装置での高分子液体の熱潤滑問題に対して、マクロな熱・運動量輸送の物理法則に矛盾することなく、高分子液体の内部構造と発熱を分子シミュレーションをもとに解析することができるマルチスケールシミュレーション法の基礎開発に成功した。また、その手法を用いて、マイクロチャネルにおける潤滑油(高分子鎖が短い液体)の高速せん断駆動による熱潤滑問題の解析を具体的に行った。 これによって開発した手法の有効性を示すのみならず、その解析結果から、当初は予想をしなかった物理現象としても非常に興味深い、せん断による内部構造の変形と発熱による温度上昇の相互作用によって生じる高分子液体の転移現象を発見し、その詳細なメカニズムを解析することにも成功した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、マイクロスケールでの高分子液体の熱流動現象とその内部構造の運動を解析することのできるマルチスケールシミュレーション法の基盤開発に成功した。また、その手法を具体的なマイクロチャネルにおける高速なせん断流れの熱潤滑問題の解析を行い、せん断変形による内部構造の変化と粘性発熱による温度上昇の相互作用によって生じる高分子液体の新しい転移現象を見出すこともできた。 今後の研究では、先ずはこの新たに発見した転移現象について、より詳細な解析を行う。具体的には、高分子液体の熱伝導係数などの物性値を変化させたときの影響や、チャネルの間隙を変化させたときの影響、或いは圧力差によって駆動される場合の解析など、様々な状況に対してシミュレーションを実行し、理論的に予測される結果と計算結果との比較を通して、新しい転移現象の物理的な理解をより深める研究を推進する。 さらに上述の研究に加え、現在のマルチスケール法を高分子鎖が長く絡み合いを有する高分子液体に対して拡張し、内部構造と粘性発熱が強く相互作用する運動の解析を行う。高分子鎖の絡み合いの運動がせん断流れと発熱の挙動にどのように関係するのかを詳細に調べる。 以上の研究を通して、最終的には実用的な工学分野へのアプリケーションを見据えて、技術的に可能な限り簡便で且つ物理的にも矛盾の少ないマルチスケール法の開発を推進する。
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Causes of Carryover |
研究計画に従ってほぼ予定通りに経費を執行したが、各費目において当初の見積額との若干の差額が生じたことにより、最終的に2000円弱の次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
発生した次年度使用額は2000円以下であり、本年度の当初使用計画を大きく変更することはないが、研究成果の公表をより活発に行うなどして、次年度使用額を有効に活用する計画である。
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Research Products
(16 results)