2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26800017
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山名 俊介 京都大学, 白眉センター, 特定助教 (50633301)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | テータリフト / L関数 / 退化主系列表現 / 交点数 / 池田リフト / 斎藤-黒川リフト / Kudlaリフト / Arthur予想 |
Outline of Annual Research Achievements |
一変数正則モジュラー形式は楕円関数との関わりから楕円モジュラー形式と呼ばれている. 多変数正則モジュラー形式は, アーベル多様体や二次形式との関係からジーゲルにより研究が開始され, ジーゲルの研究したモジュラー形式はジーゲルモジュラー形式と呼ばれている. この他にエルミートモジュラー形式もこれまで精力的に研究されてきた. カスプ形式と呼ばれるモジュラー形式は, モジュラー形式の世界の言わば原子であり重要であるが, その具体的実例はあまり知られていない. 楕円カスプ形式の数体への一般化はヒルベルトカスプ形式, ジーゲルカスプ形式の数体への一般化はヒルベルト-ジーゲルカスプ形式, エルミートカスプ形式の数体への一般化はヒルベルト-エルミートカスプ形式と呼ばれる. 昨年度の研究で, ヒルベルトカスプ形式のデータからヒルベルト-ジーゲルカスプ形式が具体的フーリエ級数により構成された. 類似の構成でヒルベルト-エルミートカスプ形式を作ることも可能である. 本年度に筆者は, これらのカスプ形式のテータリフトを計算することで, 更に多くのヒルベルト-ジーゲルカスプ形式やヒルベルト-エルミートカスプ形式, さらにCAPと呼ばれるクラスのカスプ形式を数多く構成した. これらはそれぞれ, 志村対応に関するWaldspurgerの理論, 斎藤-黒川リフトに関するPiatetski-Shapiro理論, Kudlaリフトに関するGelbart-Rogawski-Soudry理論の高次元化を与える. 加えて, 筆者と池田教授のヒルベルト-ジーゲルカスプ形式とテータ関数との関係が発見され, 二次形式論で重要なジーゲル公式のような局所-大域関係式を得ることもできた. さらに有理数体に2の平方根を付け加えた数体上の4次テータ関数の空間を完全に解析し, 一般論だけでなく数値計算による興味深い実例も得た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度に引き続き, 平成28年度も多変数モジュラー形式を構成する問題に取り組んだ. 平成27年度に構成したモジュラー形式のテータリフトを考えることで管状領域でない対称空間上のモジュラー形式の構成を得た上に, さらに捻ってテータリフトを考えることで平成27年度のモジュラー形式を拡張することに成功した.
テータリフトの理論は既に長い歴史を持ち, 一般論はほぼ完成している. しかし, その具体例は全て小さい次数の緩増加なモジュラー形式のテータリフトであった. 筆者の研究では, 高次の非緩増加なモジュラー形式にテータリフトを応用した. これはテータリフトの理論を豊かにするばかりでなく, 平成27年度のモジュラー形式をテータリフトの理論と結び付けて新たな側面を見出し, 双方向に有意義な試みだったと思う. 結果として, 志村対応, 斎藤-黒川リフト, Kudlaリフトという重要なリフティング理論の高次元化する成果を得た. テータリフトの理論の幾何的, 算術的側面はまだまだ発展中であり, 筆者のリフトとテータリフトの関係は, 算術的多様体の幾何の解析にも今後応用できると思う. 加えて本年度では, 数値計算の利用など, 筆者にとって新しい試みも積極的になされた. 以上により本年度も研究に大きな進展があったと言っても良いように思う.
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Strategy for Future Research Activity |
モジュラー形式は, 対称空間の超対称的関数, つまり驚異的対称性を備えた関数のことであり, 数論や代数幾何学をはじめとする幅広い分野に現れ, 主要な重要性を持っている. モジュラー形式の理論は, 近年目覚しく発展しており, 一般論が整いつつあるが, モジュラー形式の魅力的な実例は, 多変数の場合には実は殆ど知られていない. 一方, 一変数モジュラー形式のフーリエ係数はオイラー積を持ち, 具体的なモジュラー形式のフーリエ係数が理論上中心的役割を果たす. 多変数モジュラー形式のフーリエ係数の構造は一変数の場合より遥かに複雑であり, 単純なフーリエ展開を持つことは一般に期待できない. しかし, 昨年度の研究で, 簡明なフーリエ係数を持つカスプ的モジュラー形式が構成され, さらにテータ対応の理論とも組み合わせてさらに多くのカスプ的モジュラー形式の具体例が構成された. それらの表現論的性質はほぼ全て解明されたが, 他の性質も調べる余地がある. 今後の研究では, これらのカスプ形式のフーリエ係数を算術的あるいは幾何学的対象と結びつけて, 代数学や幾何学への応用を試みてみたい.
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Remarks |
Shunsuke Yamana Home Page http://syamana.sub.jp
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