2015 Fiscal Year Research-status Report
可積分系の高次非線形分散型方程式に対する初期値問題の適切性と漸近挙動
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26800070
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
加藤 孝盛 佐賀大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (50620639)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 偏微分方程式論 / 非線形分散型方程式 / 初期値問題 / 適切性 / 漸近挙動 / 可積分系 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者の研究題材は, 高次非線形分散型方程式の初期値問題の適切性と解の漸近挙動である. ここで適切性とは, 解の一意存在と初期値に対する連続依存性が成立することを指す. 非線形分散型方程式の解析において, 線形化方程式の解の性質と非線形項の代数的構造及び幾何学的構造の特徴を反映した手法を構築することが重要になる. 特に近年の研究において, 解の滑らかさを悪くする部分と時間減衰が遅い部分が共鳴部分という非線形項に集中することが分かってきたため, 適切性や漸近挙動の研究において共鳴部分の解析が鍵となる. 申請者は, KdV 階層及び mKdV 階層の初期値問題の適切性を周期境界条件下で考えた. これらは無限個の方程式からなる階層であり, それに含まれるすべての方程式は無限個の保存則を持つ可積分系であり, 豊富な構造を有する. 一方で高階の方程式には特異性が強い非線形項が存在するため, それを線形化方程式の解の摂動として捉えられず, 適切性の結果は少ない. そこで申請者は, 5次 KdV 及び mKdV 方程式に対して, 複数個の保存量を用いた非線形変換を行うことにより, 強い特異性を持つ共鳴部分を相殺し, 残りの非線形項は線形化方程式の摂動として捉えることができることを示すことにより, 時間局所適切性を証明した. このように可積分系が持つ代数的な構造を非線形分散型方程式の理論に取り入れたことが本研究の最も独創的な部分である. なお本研究は, 名古屋大学の津川光太郎准教授との共同研究に基づく. 上述で構築した精密な評価を応用し, 確率論的手法を組み合わせることで, 初期値を確率化して不変測度を構成することにより, 5次 mKdV 方程式及び4次シュレディンガー方程式の局所解を時間大域的に延長することに成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
周期境界条件下での5次 KdV 方程式や5次 mKdV 方程式の適切性及び不変測度に関する論文として完全には出来上がっていない. 大学側の予算が削減され, 非常勤講師を雇えなくなり, 授業やセミナーのコマ数が増えたことや学部の改組に伴い委員会活動も増えたことにが原因の一つである. 本年度で大学内の改組も一段落するため, ある程度の研究時間は確保できると予想できるため, 研究実績で述べた結果を論文としてまとめことを目標とする. 一方で, 京都大学数理解析所で開催したRIMS共同研究「偏微分方程式論に付随する確率論的問題」および佐賀大学で開催した「非線型の諸問題」, 「Saga Workshop on Partial Differential Equations」 で組織委員あるいは研究代表者となり, 研究集会の運営に携わることができた. これらの研究集会では幅広い分野の研究者に講演して頂き, 研究の関心が広がった. 来年度以降もこれらの研究集会は継続する予定である.
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Strategy for Future Research Activity |
周期境界条件下において一般のn次 KdV 方程式および mKdV 方程式に対する初期値問題の適切性を解明する. 一般の次数においては方程式は帰納的にしか表現できず, 具体的な表示式を持たないため, 5次の場合のように共鳴部分を相殺するための適当な非線形変換を発見することが難しい. そこで7次, 9次の場合に具体的に計算することで共鳴部分を相殺する変換の規則性を見出す. そして一般の次数の場合に対応する適当な変換を推測し, 帰納的な証明を与えることが今後の課題である. そのためには Lax pair による導出法などを学習し, 保存則と共鳴部分の関連性をより明確にする必要があると考えている. なお本研究は名古屋大学の津川光太郎准教授とともに進展させる予定であり, 今後も密に情報交換していく. 1次元ユークリッド空間における5次 mKdV 方程式及び4次シュレディンガー方程式の漸近挙動を調べる. これらの方程式は, 形式的な計算により線形化方程式の解に漸近する短距離型とそうではない長距離型の臨界の非線形項を持つことがわかり, この分類を行うことにより方程式の一つ特徴づけを与える. この問題では, 滑らかさが悪くなる共鳴部分と時間減衰が遅くなる共鳴部分の両者を同時に取り扱うことが困難な部分である. 一方でこれら共鳴部分は, 特異性が強い反面, 方程式が持つな対称性を反映できる部分である. そのため適当なゲージ変換や複数個の保存則を用いた変換を組み合すことにより, この部分を相殺することができ, 残り部分は線形化方程式の解より減衰が速いことを証明できると考えている. アイデアは単純であるが, 実際に証明する際には発展的な調和解析の道具を用いる必要があり, その分野に精通している大阪大学の冨田直人准教授と情報交換していく予定である.
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Causes of Carryover |
本年度は, 世界各地で発生したテロや熊本の震災などがあり, 年度末に計画していた海外出張を取りやめたことが予算が余ってしまった大きな原因である.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度の計画として, 9月にカルフォルニア大学サンタバーバラ校の Gustavo Ponce 教授をところに滞在し, 3月にドイツのボン大学の Herbert Koch 教授を訪問することを計画している. また前年度から継続して佐賀大学で開催される「Saga Workshop on Partial Differential Equations」やRIMS共同研究「線形及び非線形分散型方程式の最近の進展」の組織委員になり, それぞれの研究集会を運営し, 講演者や参加者の旅費を援助する予定である. また本年度は大学側から支給されていた運営交付金が前年度と比較して大幅に削減されるため, 旅費等はすべて科研費を用いる予定である.
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