2015 Fiscal Year Research-status Report
CMB偏光観測のための高精度偏光キャリブレーションの研究
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26800125
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
西野 玄記 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 特任助教 (80706804)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 宇宙マイクロ波背景放射 / インフレーション宇宙論 / 偏光 |
Outline of Annual Research Achievements |
宇宙誕生初期に指数関数的な加速膨張があったとするインフレーション理論は、宇宙誕生初期に原始の重力波があったことを予言し、その重力波は宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の偏光に「Bモード」と呼ばれる特徴的な奇パリティの偏光パターンを作るとされている。そのため、そのCMBのBモードを観測することは、インフレーション宇宙論の決定的な検証に繋がり、物理的な重要性から世界各地でその発見を目指した観測が行われている。CMBのBモード観測における最も重要な系統誤差のうちの一つは観測装置の偏光感度の方向の較正における誤差である。本研究はTau Aと呼ばれる偏光した超新星残骸の観測データの解析や観測装置の偏光較正精度向上のための研究などを通して、将来的なBモードの発見を目指すものである。 研究開始からこれまでに主に以下の三点の研究を遂行してきた。第一の研究内容としては、CMB偏光観測実験POLARBEARでこれまでに取得されたTau Aのデータを解析することで、偏光天体の理解及び観測装置の系統誤差等の理解を進めるものである。平成27年度中までに既に発表済みのデータに新たな一年分の観測データを加えた解析をほぼ完了した。それ以前と比べ、より良い精度での検出器偏光感度特性の理解を得た。第二には、将来的にTauAの測定感度を高めるための準備研究を進めてきた。その主要な開発項目であるデータ収集系・検出器読み出しシステムについて新たな試験環境を構築した。最後に、将来的に期待される衛星を用いたCMB偏光観測においてTauAによる観測較正がどれだけ有効かどうかの初期段階の検討をシミュレーションを用いて行った。このスタディではLiteBIRD衛星計画のスキャンストラテジーを念頭に検討を行い、統計精度的には要求を満たすことが可能なレベルであると結論し、TauA偏光データのさらなる理解を進めることの重要性を確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度中の研究により、観測装置の偏光特性やTauAのこれまでの偏光データの解析については、データの理解に若干の時間がかかりながらもほぼ完了に近い状態に到達し、着実な進展はあったものといえる。同時に進めている将来のTauAの高感度・多波長観測実現のための準備研究については、新しい望遠鏡の制御システム試験の成功や既存の設備を活用した新たな試験セットアップの構築などといった進展があった。以上のことなどから、本研究はおおむね期待通り進展しているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度である平成28年度には、まずこれまでに得られたPOLARBEAR実験における偏光角度較正解析の結果を含んだ最新結果を発表する準備を進めていく。また、並行して、現在取得されつつある新データの解析については共同研究者と協力して引き続き進めていくことで、偏光観測に関する系統誤差の理解を深めることができると期待される。TauAの多波長・高感度化観測のための準備研究についても、徐々に試験システムのスケールを拡大させながら、実現へ向けて推進を図る。
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Causes of Carryover |
本計画申請時にはチリの観測サイトへの海外出張を予定していたが、観測の遠隔制御システムなどに目覚ましい進展があったことで、現地への出張が必ずしも必要ではなくなった。それに代わって、観測感度の向上のための新型データ読み出しボードを導入するにあたって参加が必要となったカナダ・マギル大学における講習セッションへの出張が可能となるなど有効に使用できたが、その差額は大きく次年度使用額が生じることとなった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究計画の発展的な展開により最終年度の物品費は計画申請時よりも若干多く必要となることが予想されるため、次年度使用額は測定等に必要なケーブル等の少額消耗品の購入にあてる計画である。
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Research Products
(9 results)