2015 Fiscal Year Research-status Report
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26800130
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
武田 真滋 金沢大学, 数物科学系, 助教 (60577881)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 有限温度量子色力学 / 相転移 / 臨界現象 / 格子量子色力学 / モンテカルロシミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、研究の最終目標の一つである有限密度QCD系の臨界点、および、臨界線を定めた。特に、温度格子サイズを6とし、3フレーバーQCD理論に的を絞った。格子作用には、岩崎ゲージ作用と改良型ウィルソンフェルミオンを用いた。このセットアップで、化学ポテンシャルとハドロン質量で張られる二次元パラメータ空間の相構造を調べ、一次相転移領域とクロスオーバー領域の境界線である二次臨界線を定めた。臨界点の位置決定には、コミュニティーでよく使われている尖度交差法を用いた。解析手法には、位相再重み付け法、パラメーター再重み付け法とマルチアンサンブル法などを用いた。後者の二つの方法を採用したことで、パラメーター探索を効率化でき、その節約した分の計算資源を高統計実現へ投資することができたことが研究全体の飛躍的な進展に繋がった。このお陰で、有限密度系で特徴的な符号問題を起源とする揺らぎの効果をある程度抑制することができた。得られた結果については、臨界線の曲率が正であることがわかった。これは、既存の結果と相反するものであり、今後、コミュニティーにおいて議論を呼び起こす可能性がある。これらの結果はすでに論文として発表し、国際的に評価の高いジャーナルに掲載されている。また、国際会議においても発表を行った。ただし、ここで得られた結果は、温度格子サイズが有限で、かつ、比較的離散化誤差が多く含まれているようなパラメータ領域である。よって、最終的には連続極限を実行し、系統誤差を完全に除去する必要性が残されている。これには、さらに大きな温度格子サイズが求められることから、将来的な課題とする方針である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
パラメータの再重み法が予想以上に有効であることが示され、これによって研究が飛躍的に進展し、研究の最終目標である有限密度系の臨界点、および、臨界線を決定することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度ですでに有限密度系の臨界点、および、臨界線を決定できたが、これはあくまで温度格子サイズが有限の結果である。現在のパラメータ領域では、ゼロ密度計算の結果からの類推によれば、格子離散化誤差は比較的大きいと予想される。よって今後は、この誤差を除去するために連続極限を実行することが望まれる。しかし、今の方法のままであれば、より大きな温度格子サイズの計算をしようとしても、符号問題がより深刻化することが予想され、計算資源もさらに必要となる。そこで、今後の方針としては、ゼロ密度系に立ち返り、これまでまだよく調べられてこなかった2+1フレーバーQCD(アップクォークとダウンクォーク質量が縮退し、ストレンジクォーク質量はそれらとは異なる値をもつ系)の臨界線を決定することが有意義ではないかと考えている。これは、本年度で有用であると証明されたパラメータ再重み付け法などの解析手法の恩恵を十分に享受でき、かつ、物理的に重要なQCDの相構造の一部を探る非常に面白いテーマであると考えている。そのために必要な計算資源としては、筑波大学の学際共同利用、理化学研究所内のスパコン、RIST(一般財団法人高度情報科学研究機構)によるHPCI(High perfomance Computing Infrastructure)などによって調達する予定である。これらは、ここ数年に渡って資源を獲得した実績があり、今後も応募していく方針である。
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Causes of Carryover |
本年度に生じた残額は有意義な使用を行うには半端な金額となったため、次年度の助成金と合わせ使用することにより、より有効な使用計画が可能となると判断したことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に請求している助成金と合わせて、研究成果発表の旅費や、学外から招聘する講師によるセミナー等を通じた専門知識の提供に対する謝金として使用する予定である。これらを通して研究が最も効率的に推進できるように、研究費の使用については最大限の配慮を行う。
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