2014 Fiscal Year Research-status Report
ガドリニウムの熱中性子捕獲反応でのガンマ線の多重度とエネルギー分布測定
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26800139
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
矢野 孝臣 神戸大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70437341)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ガドリニウム / 熱中性子捕獲反応 / ガンマ線 / 中性子ビーム / Ge検出器 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ガドリニウム(Gd)の熱中性子捕獲反応から放出されるガンマ線の総数とそれぞれのエネルギー、ガンマ線間の角相関を測定することである。ガドリニウムの熱中性子捕獲反応は近年の高エネルギーニュートリノ実験に用いられているのみならず、中性子線医療にも用いられている。ガドリニウムからの中性子捕獲ガンマ線の理解は、これらの応用分野において技術の向上を生むと期待される。 平成26年度の研究として、「同位体Gd-157・Gd-155を用いたビーム実験」、「天然ガドリニウムの熱中性子捕獲ガンマ線のデータ解析」を計画に基づき実施した。具体的な平成26年度の研究の実績としては以下の通りである。 1. 大強度陽子加速器施設J-PARCの物質生命科学実験施設(MLF)において、中性子ビームラインBL04とGeガンマ線検出器ANNRIを用いたビーム実験を行った。これは研究計画の通りである。ビーム実験の標的にはGd-157・Gd-155をそれぞれ用いた他、校正用にコバルト、ナトリウム、セシウム、ユーロピウムのガンマ線データを取得した。また、取得した各データの解析を行い、標的とした原子核固有の離散ガンマ線スペクトラムを確認した。これにより、今後の解析に用いるデータが正しく取得できたことを確認できている。 2. 平成26年以前に天然ガドリニウムを標的とし、取得したデータの解析を行った。 解析に際しては素粒子実験に広く用いられるGeant4計算機シミュレーションライブラリを用いた。これにより、ANNRI検出器の応答を良く再現するシミュレーションの構築に成功した。 本シミュレーションを用いて各種のガドリニウム熱中性子捕獲ガンマ線モデルとデータを比較することで、現在一般に使われているモデルはいずれも不十分であることが改めて確認できた。現在は新たな計算モデルの作成と、データとの比較・評価を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画について、平成26年度はおおむね順調に進展していると自己評価する。 まず評価すべき点の一つは、平成26年12月に計画通り「同位体Gd-157・Gd-155を用いたビーム実験」を実施し、研究に必要な中性子捕獲ガンマ線のデータを取得した事である。また、データ取得に際しNaの中性子捕獲のデータ、Co線源、Cs線源、Eu線源の高統計のデータを新たに取得したことも評価できる。これにより、後に示す通りANNRI検出器の応答を理解することが出来た。これらのデータについては解析中であるが、平成26年12月以前に取得した天然Gdを標的としたデータに比べバックグラウンドが少なく、良質なデータであること等が確認できている。これにより、今後の解析の段階においてより良好な情報を取得できることが期待される。 第二に評価すべき点は、データ解析において精度良くANNRI検出器を再現する計算機シュミレーションを構築した点である。本シミュレーションは高エネルギー粒子物理学研究において広く利用されているGeant4を基礎として構築したものである。線源のデータを使用し、エネルギースペクトルを良く再現出来ることが確かめられている。また、ガドリニウムのガンマ線データについてもモデル計算と本シミュレーションを組み合わせることによって、各モデルの評価を行うことの出来る段階まで進んでいる。これにより、ガンマ線放出のモデルと実データの比較を行うための基礎を固めることが出来た。この点も平成26年度の実験計画通りである。 実験計画から遅れている点は、『ガンマ線の本数・エネルギー分布・角度相関の測定手法の確立』である。エネルギー分布については、上記のシミュレーションの使用により十分進展している。ガンマ線の本数および角度相関については現在解析を進めている。 以上から、平成26年度の本研究はおおむね計画通り進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度までに、解析に必要なGd-157・Gd-155の熱中性子捕獲ガンマ線のデータの取得が出来ている。また、『研究の目的である熱中性子捕獲ガンマ線の多重度とエネルギー分布測定』を行うにあたって必要となる検出器の計算機シミュレーションも精度良く構築することが出来ている。 今後の研究にあたっては、既存のデータの解析に主眼をおいて進める方針である。平成26年度のデータにはGd-157・Gd-155の両方について10の9乗事象を超える熱中性子捕獲ガンマ線放出事象が含まれており、まずこのデータを十分に整理し、理解することが必要である。 解析における課題は、信頼できるGdの中性子捕獲反応のモデルの構築である。ガンマ線検出に用いたANNRI検出器は、実験の時点でカバーする範囲は全立体角の22%であった。これは震災の影響で、側面のGe検出器が復旧中だったことによる。この影響により立体角が当初予定の半分となり、解析に若干の困難を伴っている。これを解決するため、現在新しく信頼できるGdの中性子捕獲反応モデルの構築を行っている。モデルと検出器シミュレーションを精度良く構築し、それらによりデータを良く再現出来れば、モデルが示す放出ガンマ線のエネルギーや多重度によって実データを評価することが可能である。既存のモデルについては平成26年の研究により評価を行ったが、いずれも再現が不十分であることが分かっている。現在の時点で我々は検出器シミュレーションの構築に成功しており、今後熱中性子捕獲ガンマ線のモデルの構築を行ってゆく。 また、新しい実験データの取得については、検出器の立体角の回復の状況を見て行ってゆく予定である。上記のモデルの構築は立体角の向上したデータの解析についても有効である。新規データでは、立体角の向上によってより精度の良いガンマ線放出モデルの評価を可能とする。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由の一つは所属・雇用先実験計画の変更に伴って、予定していた海外学会Neutrino 2014での発表主題を変更した点にある。Neutrino 2014においては"Low Energy Neutrino Studies and Backgrounds at Hyper-Kamiokande"という主題で発表を行った。これは本研究のニュートリノ分野での応用についての内容を含むが、新たな雇用先実験計画であるHyper-Kamiokandeについて述べたものであるため、別の予算で海外出張を行った。また、もう一つの主な理由は実験に用いる濃縮Gd同位体サンプルの購入額が予定より小額となったことにある。これは濃縮Gd同位体を入手するにあたって、金属ガドリニウムではなく、入手の容易な酸化ガドリニウムを選択したことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度には予定通り海外学会への参加する。また、解析の方針からガドリニウムのガンマ線放出モデルの構築が喫緊かつ重要な課題となった。これらについて、既存の計算モデルの開発者であるJ-PARC MLFの研究員とも研究打ち合わせを予定している。 平成26年度は、実験に用いる同位体としてGd-157を購入・使用した。Gd-155については研究協力者の提供によるものである。これらは中性子ビームの照射により性質を変化させるため、消耗品である。平成27年度には天然Gdおよび同位体Gd-155を購入し、さらなるデータの取得を予定している。次年度使用額はこれらに用いる予定である。
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Research Products
(6 results)