2014 Fiscal Year Research-status Report
新たな格子離散化法で探る高エネルギー物理のフロンティア
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26800147
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
三角 樹弘 慶應義塾大学, 経済学部, 助教 (80715152)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 非可換ゲージ理論 / 閉じ込め / カイラル対称性 / ソリトン / 相構造 / 有限温度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は素粒子物理の非摂動的側面の理解を目標としている。新規に開発された格子定式化やその他の新しい非摂動的解析法に基づいて、素粒子・原子核現象論におけるいくつかの重要課題を解決することを最終目的とする。平成26年度は、コンパクト化された時空における非摂動ゲージ理論に着目し、Z3-QCDと呼ばれる新しい格子定式化を用いた有限温度QCD系の研究、Bionと呼ばれる新しい複合ソリトン配位に基づく非摂動現象の研究、という2つのトピックの研究を行った。 Z3-QCDは閉じ込め現象に深く関わる中心対称性が厳密であり、従来の格子数値計算では完全には分析出来なかった「閉じ込め」と「カイラル対称性の自発的破れ」の関係について、新しい観点から理解を深めることが可能になった。具体的には、Z3-QCDに基づく有限温度格子計算を行いポリャコフループ真空期待値(閉じ込めの秩序変数)とカイラル凝縮(カイラル対称性の秩序変数)の温度依存性を調べた。その結果、閉じ込め/非閉じ込めの1次相転移を確認し、その転移温度付近でカイラル対称性が急速に回復する様子を確認した。 Bion配位に基づく非摂動現象の研究では、1次元コンパクト化された時空ではBion凝縮によって閉じ込めが生じるという事実に着目した。随伴表現クォークを導入した量子色力学(QCD)や2次元非線形シグマ模型について、クォーク質量・コンパクト化半径・境界条件をパラメータとする相構造を分析し、Bionの凝縮による閉じ込め現象が現実のQCDとどのように関係しているのかを詳らかにした。また、複合ソリトン配位であるBionの具体的な構成方法を提唱し、その配位が摂動計算におけるambiguityの相殺など予想されていた寄与を持つことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成26年度の目標であったZ3-QCDに基づく有限温度格子数値計算は完了し非自明な結果を得る事に成功した。これに関してはいくつかの国内研究会・学会で共同研究者とともに研究成果発表を行い、成果をまとめた論文を執筆中である。さらにBion配位に基づく閉じ込め・相構造の研究が予想以上に進展しており、年度内に3本の論文出版、1本の研究会紀要出版、3度の招待講演を行った。この結果を考えると、本研究は質・量ともに計画を上回るペースで進展しており、上記の区分に適合すると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度はこれまでの研究の一層の進展を目標とする。Z3-QCDに基づく有限温度格子計算についての成果を吟味し、主要な結果を中心に論文にまとめ公表する予定である。Bionに基づく閉じ込め・相構造については「Lefschetz thimble法」と呼ばれる拡張型経路積分法を応用する事でこれまで得られた結果の新たな側面を理解し、非摂動量子現象に関する知見を深める。また、当初の目標であったBrilloun fermionの改良とそれに基づく格子数値計算についてもコード作成を行い研究を進める。
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Causes of Carryover |
旅費に関しては国内国外にバランスの差はあれど、概ね予定通りの使用額であった。一方、人件費・謝金・その他については150,000円を予算としていたが、共同研究においてほとんどの場合代表者自身が出張していたため使う必要がなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成26年度に外国旅費を予定以上に使っていることから、次年度使用額を平成27年度における海外での研究発表とその旅費・宿泊費に当てる予定である。Z3-QCD、Bion理論の両方とも研究成果が上がっており、海外の研究会での研究発表を行うことで、研究内容を周知することが可能になる。
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