2015 Fiscal Year Research-status Report
格子フェルミオンに対する新手法を用いた低温有限密度量子色力学の研究
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26800154
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
永田 桂太郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究員 (00586901)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 有限密度QCD / 符号問題 / 複素ランジュバン法 / 特異ドリフト問題に対する新解法 |
Outline of Annual Research Achievements |
低温有限密度格子QCDシミュレーションおよびそのために必要な符号問題解法の研究を行った。昨年度報告を行ったシフトされた縮約行列の逆行列に対する反復解法について、計算科学の専門家と相談した結果、現在存在するアルゴリズムでは難しい事がわかった。対処法として、密行列に対する線形方程式を反復法で解くアルゴリズムの開発、あるいは、大規模並列化が必要である。 一方で、本課題の申請後に発展した複素ランジュバン法を用いて、本研究の目標に有用な方法を構築する事が出来た。本年度は主にその方法の構築、検証、およびQCDへの応用の準備を行った。
Sextyらによって、2013, 2014年にゲージクーリング法を用いてQGP相の高密度領域のシミュレーションが達成された。一方で、MollgaardとSpilttorffはQCDの有効理論であるカイラルランダム行列を用いて、低温有限密度において複素ランジュバン法が破綻することを示した。その結果は、位相クエンチの結果が再現されるるというもので、低温QCDにおける「クォーク数増加問題」と同じ起源のものである。
私は共同研究者とともにこの問題の解決法を提案した。複素ランジュバン法の破綻はディラック固有値の広がりがランジュバン方程式に極をもたらすことで発生する。そこで、我々は、ゲージクーリング法に用いるノルムとして、ディラック固有値を含むような新しいノルムを用いることを考案した。この新しいノルムを用いて、カイラルランダム行列理論に対するシミュレーションを行ったところ、従来のゲージクーリング法が破綻するようなパラメータ領域に対しても、我々の方法を用いると正しい結果が再現できることがわかった。ランダム行列とQCDは類似のディラック行列の構造を持っているためランダム行列での有用性はQCDへの有用性も期待できる。現在、この方法のQCDへの応用を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記で述べたように、当初計画していた方法は、現時点で利用可能なアルゴリズムでは実現が難しいことがわかった。可能な対処法としては、密行列の線形方程式に対するアルゴリズムの構築、大規模並列化、有効な近似法などが考えられる。しかしながら、これらの方法はいずれも難易度の高い問題である。
一方で、本研究申請後に発展してきた複素ランジュバン法を基に、さらに新しい方法を開発することで、本研究目標であるハドロン相高密度領域のシミュレーションに有用な方法の開発を行うことができた。 この方法は、当初計画していた方法を含む従来の方法にはない利点を持っている。まずは、複素ランジュバン法は与えられたパラメータ(化学ポテンシャルや温度)上でシミュレーションを行い、その点で配位を生成することができる。これはゼロ化学ポテンシャルで生成された配位を用いる従来の方法には無い点である。従来の方法は化学ポテンシャルの増加に伴い計算の信頼性が低下する問題や、体積の増加に伴い計算コストが指数的に増加する問題があったが、複素ランジュバン法にはこの問題点もない。さらに、複素ランジュバン法に対してはその結果の正当性を判定する条件が定式化されており、シミュレーションの結果が信頼できるものかどうかを判定することが可能である。
「クォーク数増加の問題」は複素ランジュバン法でも発生するが、私が、共同研究者とともに提案した新手法は、カイラルランダム行列理論における「クォーク数増加の問題」に有効であることがわかった。理論の構造から、我々の方法はQCDへの応用も期待できる。これらの理由から、近年の発展を取り込むことで、当初計画以上の成果をあげることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最近提案した複素ランジュバン法に対する新手法をQCDに応用することで、ハドロン相有限密度領域のシミュレーションを遂行する。我々の提案した方法は、素朴な拡張でQCDに応用可能である。一方で、QCDとランダム行列は作用のボソン部が異なり、これが複素ランジュバン方程式の収束性に影響する可能性がある。
今後は、QCDに対する複素ランジュバン法のプログラムを開発し、QCDへの有効性の検証を行う。
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Causes of Carryover |
本分野の最重要国際研究会であるLattice 2015が国内で開催されたため、旅費使用が当初より少なかった。他の国際研究会への参加などを行ったが、それでも差額が生じた。本年度に使いきるよりも、本年度に繰り越し使用する事がより有益だと判断した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
旅費の一部として国際研究会の参加費に使用する。
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Research Products
(12 results)