2016 Fiscal Year Research-status Report
格子フェルミオンに対する新手法を用いた低温有限密度量子色力学の研究
Project/Area Number |
26800154
|
Research Institution | Kochi University |
Principal Investigator |
永田 桂太郎 高知大学, 教育研究部医療学系連携医学部門, 助教 (00586901)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
|
Keywords | 有限密度QCD / 符号問題 / 複素ランジュバン法 / シルバーブレイズ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的である低温有限密度QCDの性質の解明に向けて、昨年度までSakurai-Sugiura(SS)法を用いた研究を行ってきたが、昨年度報告に記載したようにSS法の低温有限密度QCDへの応用には、現在利用可能なソルバーで解けないクラスの線形方程式が発生することがわかった。そのため、近年目覚ましい発展をとげ、高温高密度QCDへの応用が達成された複素ランジュバン法を用いた研究を進めている。昨年度は低温への応用で発生する問題に対して拡張されたゲージクーリング法を開発し、ランダム行列理論で方法のテストを行った。
昨年までの成果に基づき、本年度は格子QCDに対する複素ランジュバンシミュレーションのプログラム開発、その低温高密度QCDへの応用、また複素ランジュバン法の正当性判定条件の構築を行った。プログラム開発では、標準スタッガードフェルミオンおよび標準プラケット作用を持つ格子QCDを採用し、その複素化、ランジュバン方程式に従う配位生成、および、ユニタリティノルムおよび反エルミートノルムの2種類のノルムに対するゲージクーリング法のプログラムを実装した。高温領域において先行研究[Sexty(2013)]の結果を再現することを確認した後、低温有限密度領域への応用を開始した。格子点数空間方向4, 時間方向8の格子に対して、クォーク化学ポテンシャルmu a = 0~2の範囲で、ゲージクーリングのパラメータを調整しながらシミュレーションを行った。複素ランジュバン法は非物理解への収束が問題となるため、非物理解への収束の際におきる典型的な振舞である位相クエンチシミュレーションも行い、また、正当性条件としてドリフト項の分布も計算した。化学ポテンシャルがmu a = 0.2 - 0.5程度で位相クエンチと複素ランジュバン法での有意差を見いだした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目標はQCDの低温有限密度領域、特にクォーク化学ポテンシャルがパイ中間子質量の半分を超える領域(mu a >= m_pi/2 )に対して第一原理計算を遂行することである。本年度行った複素ランジュバン法の研究では, mu a = m_pi/2 を越えた領域のシミュレーションを実際に行い、数値的な結果を得ている。得られた結果の真偽の判定が重要であるが、これまでのところ、破綻した際の顕著な振舞である位相クエンチシミュレーションとは有意な違いが見えており、さらにドリフト項の確率分布が正しい収束条件を満たしており、結果の妥当性が示唆されている。mu a = m_pi/2を越えた領域に対する直接シミュレーションはこれまでに例がなく、この領域のシミュレーションが遂行された事は有限密度格子QCDの研究の歴史の中でもほぼ初の成果であり、本研究の目標に近く大きな進展と考える。
一方、本研究で対象とする領域(mu a >= m_pi/2)では、フェルミオン行列式の零点に起因した困難が発生することが、複素ランジュバン法やレフシェツシンブル法の比較などから示唆されている。本研究においてこの問題が発生する可能性があるが、有限格子サイズ効果で回避できていると推測される。格子の大規模化に伴いゼロ点に起因した問題が顕在化する可能性があり、この点については今後注意が必要となる。符号問題に対する完全な解法が得られたわけではなく、まだ困難が残る可能性もあるが、目標とする領域に対する数値計算が進展していることから、順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在の複素ランジュバン法を用いた研究を継続して行う。 複素ランジュバンシミュレーションは、自己相関長がハイブリッドモンテカルロ法と比べて非常に長いことがわかってきたため、現在行っている低温有限密度領域のシミュレーションを進展させ、平衡に達するのに十分な時間のシミュレーションを行う。また、ゲージクーリン法のパラメータ調整なども行う。 進捗状況のら項で説明したように、現在採用している格子サイズより大きい格子に対しては、フェルミオン行列式のゼロ点に起因した特異ドリフト問題が顕在化し、複素ランジュバン法が破綻することが予想されるため、複素ランジュバン法の収束を改善するための方法開発を検討する。
|
Causes of Carryover |
昨年度後半に所属、および任期付職から常勤職への勤務形態の変更があったため、出張など計画等の変更が必要となり、差額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度の差額は、本年度に繰越し、研究成果発表などに使用する
|
Research Products
(9 results)