2015 Fiscal Year Research-status Report
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26800157
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Research Institution | High Energy Accelerator Research Organization |
Principal Investigator |
久保 毅幸 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 助教 (30712666)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 超伝導 / 超伝導加速空洞 / 多層膜 |
Outline of Annual Research Achievements |
超伝導層と絶縁層からなる多層膜構造を加速空洞内面に導入する事で、バルクのニオブ空洞を大きく上回る加速電場とQ値が実現可能であると考えられている。以前、研究代表者らは、超伝導多層膜構造で到達できる最大加速電場すなわち過熱磁場の理論的研究を行い、材料の組み合わせと最適膜厚を示した。この計算では、理想的に平坦な超伝導体と絶縁体からなる多層膜に平面波が垂直入射する状況が仮定されているが、現実の試料の膜厚は一様でなく表面に凹凸が存在し、更には捕獲磁束の存在も無視できない。理論と実験データの精密な比較には、これらの効果を入れて理論を拡張するか、試料の質を理論の仮定に近づける必要がある。このような背景のもと、平成27年度は理論の拡張と試料評価のための実験環境の整備を行った。(1)試料表面に必ず存在する無数のナノスケールの凹凸は、超伝導電流を増幅させ至る所で過熱磁場を実効的に小さくする。これをモデル化し、準古典理論に基づく過熱磁場の計算と組み合わせることで、最適膜厚の再評価を行った。(2)平成26年度に引き続きサブミリメートル・サイズのピットの磁場増幅効果の研究を更に推し進めた。(3)超伝導空洞冷却時に環境磁場が量子化磁束として捕獲される。これは空洞表面の損失・発熱に寄与し、最大加速電場とQ値を下げる方向に働くため、多層膜構造導入による性能向上の原理実証に臨む際、必ず立ちはだかる問題である。研究代表者は、一昨年に発見された「超伝導空洞を温度勾配下で冷却することで捕獲磁束を低減できる」という現象を理論的に考察し、実験結果を上手く説明するモデルを提案した。(4)転移温度測定装置を立ち上げ測定を開始した。これを用いれば、試料の質を評価するとともに、結果を成膜条件にフィードバックすることで継続的に試料の質を向上させることが可能である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究代表者が大きな病気を患い、研究の現場から長期間離れていたことが原因で、実験準備が大きく遅れている。平成27年度末に試料評価用の転移温度測定装置が立ち上がり、漸く多層膜試料の作成と評価のフィードバックのループが形成されたところである。一方で、理論面での進展は著しい。平成26年度に引き続き、表面に存在する無数のナノ・スケールの凹凸の影響及びサブミリメートル・サイズのピットの磁場増幅効果を理論的に評価し、研究成果を査読付き論文誌から出版した。また、ナノ・スケールの凹凸の効果を考慮に入れて最適膜厚を再評価し、カナダで開催された超伝導RF国際会議2015の招待講演で発表した。更に、空間的温度勾配下での空洞冷却による磁束排除現象を理論的に解析し、実験と合うモデルを提案した。これについては、SLAC線形加速器研究所で開催された会議に招待され口頭発表を行った。理論面での進展は、計画を大きく上回るものである。実験と理論の進捗状況を総合的に評価すると、やや遅れていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は研究代表者の病気が原因で実験が大きく遅れることになった。したがって、平成28年度は引き続き転移温度測定装置を用いた試料の評価と試料作製へのフィードバックを繰り返すことで試料の質の向上に努める。また、理論研究も並行して推し進める。理論面での残された課題のうち重要なものは、多層膜の各層の膜厚が不均一である場合の性能への影響を評価することである。
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Causes of Carryover |
平成27年度は研究代表者の病気が原因で実験が大きく遅れることなり、物品の購入等も予定通りには行えなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成28年度は引き続き転移温度測定装置を用いた試料の評価と試料作製へのフィードバックを繰り返すことで試料の質の向上に努める。次年度使用額は、装置の維持・メンテナンス・改良及び試料作製に回す。また理論研究も並行して推し進める予定であり、研究成果の発表のための旅費としても使用する予定である。
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