2014 Fiscal Year Research-status Report
多自由度強相関電子系における光誘起超高速ダイナミクスの生成と制御
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26800163
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
前島 展也 筑波大学, 数理物質系, 講師 (90390658)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 光誘起相転移 / 電子格子相互作用 / 強相関電子系 / モット絶縁体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、I. 2×2×2クラスター上の2軌道ハバード模型における光励起状態のスピン・軌道相関、II. 1次元有機導体におけるレーザー誘起ダイナミクス、の2点について研究を行った。 I.遷移金属酸化物における光誘起現象の研究が近年活発に行われている。特に、そのような例の一つであるバナジウム酸化物RVO3(R はY もしくは希土類)では、光照射直後の反射率スペクトルにおける低エネルギー成分の増大などの過渡的変化が明らかにされたが、スピン・軌道秩序の変化については明らかではなかった。そこで2x2x2クラスター上の2軌道ハバード模型に対する厳密対角化計算を行い、光励起状態の支配的なスピン・軌道相関について調べた。特にクラスターに対して正方晶的な異方性を導入し、基底状態と光励起状態の性質を比較した結果、基底状態はz方向のみに強い軌道相関を持ち擬一次元的な性質であるのに対して、光励起状態はxy平面内を動く光キャリアのために2次元的な相関を示すことが分かった。 II. 擬1次元電荷移動錯体TTF-CAに対する最近の理論研究により、この物質では光学活性なスピン励起が存在することがわかっている。この光学活性なスピン励起を直接赤外レーザーで揺り動かすことにより、可視光誘起とは全く異なる相転移現象が発現する可能性がある。そこで我々はTTF-CAのより現実的な模型である一次元拡張イオン性ハバード模型におけるレーザー誘起ダイナミクスを時間依存シュレディンガー方程式を数値的に解くことによって調べ、光キャリアの生成を介さずスピン励起を誘起して2量化が解ける逆スピンパイエルス転移が生じることを明らかにした。また分子内フォノン自由度と電子が強く結合した有機伝導体(EDO-TTF)2PF6における光誘起コヒーレントダイナミクスに関する解析を行い量子フォノンのダイナミクスが光誘起相転移プロセスに重要な寄与をしていることを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
多軌道強相関電子系の解析については、厳密対角化法を使ったものから実行している。これにより小規模系ではあるが、近似によらない、より信頼性の高い結果に基づく知見を蓄積することができる。成果報告については、学術論文を現在準備中である。 電子系―格子自由度結合系については有機物質TTF-CAを記述する模型である一次元拡張イオン性ハバード模型について解析を行い、今まで知られていた可視光誘起とは性質の異なるレーザー誘起相転移の可能性を提案することができた。これについても、1回の学会発表を実施した。 但し、当初予定していたXeon-Phiという新型のCPUを用いた大規模シミュレーション用プログラムの開発については当初より遅れている。そのため、筑波大学計算科学研究センター所有のXeon-Phiを搭載したスーパーコンピュータであるCOMAの有償利用を申請してプログラム開発を行う一方で、同CPUを搭載したワークステーションの購入は初年度については見送った。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、遷移金属酸化物を念頭に置いた多軌道ハバード模型における光励起効果については、現状の2軌道模型から本来解析すべき3軌道系へと対象となる系を広げる。同時に最近実験的研究が活発に行われているYVO3の解析も行う。また時間依存ハートリーフォック方程式を使った解析も行う予定である。一次元交互積層型電荷移動錯体TTF-CAやその他の有機スピン・パイエルス物質、1次元有機導体などの1次元強相関電子-格子結合系に対しては、赤外レーザー照射による、キャリア生成を伴わないレーザー誘起相転移の解析を更に精密化していく。特に、動的密度行列繰り込み群や厳密対角化などの数値的手法を用いて光学活性なスピン励起状態の分散曲線など詳細な性質を解析する。更に可視光照射後の時間発展、特に光照射によるソリトン形成プロセスの解析を行う。得られた結果については、安定なソリトン状態に対する解析結果[JPSJ81,104708(2012)]に基づき、スペクトルピークの起源検証などにより検討・整理する。更に、個別の物質の特異性(TTF-CA:ドナー分子・アクセプター分子の交代積層構造や強誘電性, CuGeO3:CuO4ユニットに起因するZhang-Rice-like exciton)を考慮し、ソリトン形成に加えてそれらの特異性がもたらす新規光誘起現象の探索を行う。計算手法に関しては、大規模並列プログラムの開発がようやく進みつつあるため、今年度はじめにはワークステーションを購入して、更に解析を行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
当初予定していたXeon-Phiという新型のCPUを用いた大規模シミュレーション用プログラムの開発については当初より遅れている。そのため、筑波大学計算科学研究センター所有のXeon-Phiを搭載したスーパーコンピュータであるCOMAの有償利用を申請してプログラム開発を行う一方で、同CPUを搭載したワークステーションの購入は初年度については見送った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
規模並列プログラムの開発がようやく進みつつあるため、今年度はじめには、前年度見送ったワークステーションを購入して、更に解析を行っていく予定である。
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