2015 Fiscal Year Research-status Report
多自由度強相関電子系における光誘起超高速ダイナミクスの生成と制御
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26800163
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
前島 展也 筑波大学, 数理物質系, 講師 (90390658)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 光誘起相転移 / 強相関電子系 / 軌道自由度 / スピン励起状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、I. 2×2×2クラスター上の2軌道ハバード模型における光励起状態、II. 1次元拡張イオン性ハバード模型における光学活性なスピン励起状態、の2点について研究を行った。 I.遷移金属酸化物の代表例の一つであるバナジウム酸化物RVO3(R はY もしくは希土類)における光誘起現象に関する実験的研究が近年数多く行われているが、光励起される状態の詳細については未だ不明確な点が多い。我々は2x2x2クラスター上の2軌道ハバード模型に対する厳密対角化計算を行い、光照射によって励起される状態のうちで最もエネルギーの低い状態(以下、光励起状態)の性質を数値的に調べた。その結果、光励起状態ではxy平面内で強磁性的なスピン配置が優勢となり、その原因が同平面内を動くダブロンやホロンと呼ばれる強相関電子系特有の光キャリアにあること、またそのような平面内で支配的な相関のために、同状態の光学伝導度スペクトル強度が極めて弱いことがわかった。 II. 有機電荷移動錯体TTF-CAは可視光レーザー照射による光誘起相転移現象が古くから注目を集めていた。一方で最近の解析的研究によりこの系は光学活性なスピン励起を有することが示された。故に、この状態を赤外レーザー等で揺り動かすことにより、可視光励起は異なる相転移現象が発現する可能性があるが、現実の物質に近いパラメータ領域でこの状態がどのような性質を持つかなどの詳細については十分には明らかにされていなかった。我々はTTF-CAのより現実的な模型である一次元拡張イオン性ハバード模型の光励起状態を厳密対角化法などの数値的手法により調べ、上述のスピン励起状態が、いわゆる中性イオン性ドメイン壁(NIDW)状態と呼ばれる状態をかなりの重みで含んでいることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多軌道強相関電子系の解析については、前年度より引き継ぎ解析を行ってきた。特に今年度はその結果を学術論文としてまとめ、学術雑誌Journal of the Physical Societyに投稿することができた。同論文は2015年9月にアクセプト、同11月に出版済みである。 電子系―多自由度結合系については有機物質TTF-CAを記述する模型である一次元拡張イオン性ハバード模型における光学活性なスピン励起状態の解析を行い、現実的なパラメータ領域においては同状態がいわゆるNIDWと呼ばれる状態を一定の割合で含んでいることを明らかにした。NIDWという状態自体は既に幾つかの先行研究で理論的に解析が行われてきたが、NIDWが光学活性なスピン励起状態と密接な関連があるということを初めて提案することができた。これについては、2016年3月の物理学会で報告し、現在、学術論文を準備中である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、遷移金属酸化物を念頭に置いた多軌道ハバード模型における光励起効果については、最近LaVO3以上に実験的研究が活発に行われているYVO3、VO2などを念頭に置いた解析も行う予定である。一次元交互積層型電荷移動錯体TTF-CAやその他の類似有機物質に対しては、厳密対角化に加えて動的密度行列繰り込み群などの大規模数値的手法を用いて光学活性なスピン励起状態のスペクトル強度など詳細な性質を解析する。加えて分子内振動や分子間振動などの格子自由度や、鎖間相互作用などの効果を取り入れた解析を行う。特に実験で観測されているNIDWとみられるCT励起以下の光学活性な状態が理論的に観測されない原因等を明らかにする。その上で、可視光照射後の時間発展の解析を時間依存密度行列繰り込み群などを用いて行う。計算手法に関しては、大規模並列プログラムの開発が一部完成し、また今年度購入したワークステーションや筑波大学計算科学研究センターのスーパーコンピュータなどを用いて、大規模数値計算を行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
前年度見送ったワークステーションの購入を今年度実施したが、予定していたものよりも少額であった。その主な理由は、当初予定していたメニーコアプロセッサxeon-phの搭載を消費電力などの理由により見送ったためである。その代わりに同プロセッサ上での大規模数値計算は筑波大学計算科学研究センターのスーパーコンピュータ上で行うこととし、そのための利用費を計上した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度購入済みのワークステーションに加え、および筑波大学計算科学研究センターのスーパーコンピュータを引き続き利用し、大規模数値計算による解析を行う予定である。また成果報告のための旅費を計上する。
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