2014 Fiscal Year Research-status Report
水熱合成法による新奇磁性体の合成と単結晶育成及び、その磁性に関する研究
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26800169
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
原 茂生 神戸大学, 研究基盤センター, 特命技術員 (60520012)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 結晶成長 / 水熱合成法 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度(平成26年度)の研究目的として、平行配列したS(スピン量子数)=1ダイヤモンド鎖を持つ新規遷移金属酸化物RbV3Ge2O9の単結晶試料の育成と、Mo元素を磁性元素として含むカゴメ格子を形成する新規遷移金属酸化物K2V2Mo3O11の合成及び単結晶試料の育成を掲げた。 平行配列したダイヤモンド鎖を持つRbV3Ge2O9では、これまでの代表者の研究に於いて、その相が水熱合成法により得られる事を発見し[日本物理学会秋季大会(横浜国立大),18aPSA-29(2012).]、単結晶の粗大化を目的としていた。初年度に於いて、磁化測定等に用いる事の出来るサイズ(0.7×0.7×0.1mm3弱)の平板状単結晶を育成することに成功した。また、その単結晶試料を用いて磁化測定を行い、その結果をまとめ公表した。 平行配列したダイヤモンド鎖を持つ遷移金属酸化物は1点しか公表されておらず、その基底状態が、如何様な磁気状態を示すのか未だ結論に達していない。本研究による新規物質の発見は該当研究分野の発展を促進する物として、その意義・重要性は大きいと考えられる。 カゴメ格子を形成する新規遷移金属酸化物の合成及び単結晶試料の育成では、Mo(モリブデン)がS=1を持ちカゴメ格子を形成する、これまで全く知られていなかった組成比を持つ新規物質K2V2Mo3O11の発見に至った。本物質も初年度に水熱合成法で本物質の単結晶試料を合成及び育成する事が可能である事を発見し、サイズ(0.4×0.4×0.05mm3弱)の磁化測定用六角平板結晶の育成を行った。また、その単結晶試料を用いて磁化測定を行い、その結果をまとめ公表した。[日本物理学会第69回年次大会(東海大),27aPS-98(2014).] この物質は3つのMoが3量体を形成しており、Zn2Mo3O8等類似物質の基底状態の解明に重要な役割を果たすものと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の進捗状況において、ほぼ予定通りの成果を出せたものと信ずる。平行配列したS=1ダイヤモンド鎖を持つ新規遷移金属酸化物RbV3Ge2O9の単結晶試料の育成と、Mo元素を磁性元素として含むカゴメ格子を形成する新規遷移金属酸化物の合成及び単結晶試料の育成を平成26年度の研究目的として掲げた。 平行配列したダイヤモンド鎖を持つ磁気フラストレーション系新規遷移金属酸化物RbV3Ge2O9の磁気特性については、巨視的な磁性測定を終え、その結果を日本物理学会で報告した。しかし、フラストレーション系で注目される磁気相転移の有無について明確な証拠が得られておらず、これを明らかにする為、比熱測定を行う予定である。その結果を含めて公表する為、現在論文を執筆中である。これと平行して他研究機関と共同研究を提携し、ESR、NMR、ラマン分光等の測定を行う予定である。現段階において本申請課題としてのフェーズは終了し、新たな申請課題として取り上げるフェーズであると考える。よって代表者の申請課題中、本物質についての目的はほぼ完遂したと考えられる。 また、Mo元素を磁性元素として含むカゴメ格子を形成する新規遷移金属酸化物の合成及び単結晶育成では、水熱合成法により育成したK2V2Mo3O11単結晶試料の磁気測定を行いその結果を日本物理学会で報告した。しかし、本物質は2種の磁性元素(VとMo)が含まれており、その巨視的磁気特性からは磁性の起源を詳細に論じるには不十分である。現在より詳細な実験する為、光電子分光等の予備実験を行っている。よって、本課題については共同研究の提携と論文発表を残しており、未完と判断する。 また、課題進行中に副次的に発見した新規酸化物磁性体が存在し、これらの物質について他申請課題として研究を行う事を予定しており、継続的研究が必要であると考えられる為、達成度としては完遂する余地有りと評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の進捗状況において、おおむね順調に進展しているものと考えられる。この為、次年度の推進方策は、特に大幅な変更等無く、基本的に申請書に記した方針に則った研究活動を実践する予定である。 次年度も引き続き新規物質の探索を行う。ただし次年度は過去の事例からMo5+、W5+、Rh4+、Ir5+などの不安定原子価を持つ遷移金属を含む新規酸化物の合成を行う(不安定原子価Ru5+を持つCa2Ru2O7は、原料を強力な酸化剤と共に反応させることで得られる)。水熱合成では、常圧室温では難溶性の酸化物等でも、容易に溶解することが可能となる。更に、本計画では、溶解及び反応をより速やかに行うため、出発原料に遷移金属のアンモニウム化合物((NH4)6Mo7O24等)、ハロゲン化物(MoCl5等)を選定する。特に、Mo5+、W5+では典型的原子価数が4+と6+であるため、その中間価である5+は選択が難しいが、反応に不要な寄与又は阻害しない酸化(H2O2等)・還元剤(H2C2O2等)を選び、微量な調整で合成を試みる。また、Rh4+、Ir5+は3+が典型的原子価数であるため、過塩素酸等の強酸化剤を用いる。この際、Clと結び付く可能性があるが、Clを含む新規物質であれば問題視しない。 また、反応環境のpH調整のため、酸・塩基性の溶媒を使用する。このとき反応容器自体を侵さないように、貴金属管に原料と溶媒を封入し合成を行う。また、反応環境のpH調整のため、酸・塩基性の溶媒を使用する。このとき反応容器自体を侵さないように、貴金属管 に原料と溶媒を封入し合成を行う。
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Causes of Carryover |
初年度の計画で計上した予算の内、専用の高温高圧合成用反応炉は、本研究を遂行するに際し共同利用施設を用いるため、他の研究や他者との混同を避けるため必要な実験器具であり、計画通り予算を割り当てた。その他の消耗品等についても本計画を遂行する為に必要となる物品であり、予算の使用については妥当であると考えられる。 但し研究実施状況から、次年度に繰り越し金を割り当てた。本計画では結晶育成条件の最適化が必要であり、不純物等の混入を避けるためにも必須となる為、貴金属反応管は必要不可欠である。しかしながら、2014年度の貴金属取引相場、特に金相場は上昇傾向にあった為、予算の使用を控えた。2014年度末期から現在にかけては反転し下降傾向にある為、2015年度予定分と合わせて、早い段階での購入を検討している。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の計画では、新規物質の発見及び結晶育成条件の最適化を目標としており、不純物混入防止の為、反応管として貴金属反応管を用いる予定であり、その購入に予算を計上している。また、上記理由により、初年度の購入を見送った為、研究の遂行に支障の無い様、貴金属反応管の早期の購入を予定している。 その他、実験備品等の消耗品や研究成果の報告を行う為、学会等での発表を予定しており、その際の旅費として予算の使用を計画している。
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Research Products
(5 results)