2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26800177
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
多田 靖啓 東京大学, 物性研究所, 助教 (20609937)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 超格子 / f電子 / 強相関 / 磁性 / 超伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、(1)f電子系超格子における磁性と超伝導、(2)ウラン系超伝導体における磁性と超伝導について研究を行った。(1)f電子系超格子においては、これまでの実験からスピン揺らぎが重要であることが知られているため、この系におけるスピン揺らぎとそれが誘起する超伝導について解析を行った。その結果、以前からある磁性超格子において知られていた面間磁気相互作用の振動現象をミクロな立場から再現するとともに、磁気揺らぎの次元性がスペーサー層の枚数に応じて変化することを示した。この次元性の変化に対応して、3次元的な磁気秩序は抑制される一方、有効的な2次元スピン揺らぎは超格子において増大する。これらの振る舞いは、CeIn3/LaIn3超格子における実験とコンシステントである。さらにこの揺らぎの誘起するd波超伝導に関しても解析を行い、スピン揺らぎの低次元化のために、超格子において超伝導性が強まることを明らかにした。これは、通常の金属超伝導超格子においては一般的に近接効果のために超伝導が抑制されることとは対照的であり、電子相関効果と超格子構造の協力現象であるということができる。これらの結果は現在、論文投稿中である。研究(2)は、超格子にヒントを得て物質の特徴的結晶構造に着目したものである。研究の対象とした強磁性超伝導体UCoGeにおいては、ウランがジグザグ鎖的構造をもっており、それがf電子系超格子系で研究されているような反対称スピン軌道相互作用をもたらす。本研究では、この効果を考慮することで実験で観測されている磁場中の磁気異方性を理解できることを示した。さらに、その磁気異方性の結果として、自然に超伝導の上部臨界磁場の異方性も理解されることを明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」において述べた(1)の研究に関して、理論計算自体は比較的すみやかに行うことができたが、その計算結果の解釈において非常に時間を要した。また、我々の結果の一部は、先行研究や実験家たちの素朴な理解とは異なるものであるため、その議論にも時間を費やした。また研究(2)に関しては、モデル特有の数値計算の不安定性があることが分かり、何通りかの異なる数値計算を用いて結果の確認を行ったために時間がかかった。この研究においては磁性の議論と超伝導の議論で異なるモデルを用いているため、全体の整合性についての理解を固めることに対しても、時間を必要とした。これらの結果、研究課題全体としてはやや遅れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまで得られた知見を基にして、引き続きf電子系超格子の研究を行う。具体的にはまず、実験で見られている上部臨界磁場の温度依存性と超格子構造依存性を理解するために、超伝導転移温度以下での超伝導ギャップの大きさの評価を行う。さらに、上部臨界磁場の角度依存性についても、先行研究を発展させて実験を理解したいと考えている。また、前年度の研究(2)のように、理論的観点から超格子に関係する他の系についても研究の対称を広げる。たとえば、磁気秩序と超伝導の共存する系や一様磁場中の電子系などである。前者については、強磁性超伝導体UCoGeを念頭に、磁性と超伝導が実空間でどのように共存しているのかをミクロな立場から理解することを目指す。また、後者に関しては、f電子系における量子振動やサイクロトロン共鳴について、近藤効果や格子の与える影響について考察したい。これらの研究を進めることで、実空間で複雑な構造をもつ系における電子相関効果についての理解を深めたいと考えている。
|
Causes of Carryover |
書籍やコンピュータ関連の物品を購入予定であったが、購入予定の書籍が絶版で購入できず、コンピュータ関連用品も手持ちのもので間に合わせることができたため新しいものは購入しなかった。このため、24,787円使用せず残すこととなった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の(B-A)については、当初購入を予定したものとは異なる書籍の購入費用にあてる計画である。翌年度分として請求した助成金は当初の計画通りに使用する計画である。
|
Research Products
(5 results)
-
-
-
-
-
[Book] 固体物理2015
Author(s)
石田 憲二, 服部 泰佑, 佐藤 憲昭, 出口 和彦, 多田 靖啓, 藤本 聡
Total Pages
10
Publisher
アグネ技術センター