2014 Fiscal Year Research-status Report
遷移金属酸化物を用いたトポロジカル絶縁体のバンドエンジニアリング
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26800186
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
山内 邦彦 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (00602278)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | トポロジカル絶縁体 / 熱電材料 / 強誘電性 / 第一原理電子状態計算 / 国際情報交換 / イタリア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、新奇トポロジカル絶縁体のマテリアルデザインを目標に、遷移金属酸化物の電子状態計算を行っている。H26年度は、研究計画として予定していた熱電物質に関する課題、および、強誘電界面に関する課題を推進した。 現在トポロジカル絶縁体として知られている物質には、Bi2Se3, Bi2Te3などの高効率熱電変換材料が多い。これらの物質は、熱輸送を抑える重い原子で構成されており、狭いエネルギーギャップをもつため、トポロジカル絶縁体に必要なバンド反転を生じる上で有利である。そこで、新しい熱電物質候補として期待されている酸化物、デラフォサイト型酸化物CuAlO2に着目し、原子置換を用いてトポロジカル絶縁体としての可能性を探った。しかし、CuAlO2の遷移金属サイトを重い元素に置き換えたAuInO3などで電子状態計算を行った結果、Γ点・M点でのバンド反転を生じることはなかった。原因は、デラフォサイト構造特有のO-Cu(Au)-Oダンベル構造がサイト間の混成を抑制し、バンド反転を妨げることにあった。今回の研究では新奇トポロジカル絶縁体の予測はできなかったが、その副産物として、酸化物における熱電性能の高効率化に成功した。ペロブスカイト構造をもつSrTiO3は高いゼーベック係数をもつことが最近知られているが、今回、電子ドープした強誘電BaTiO3でワニエ関数およびボルツマン輸送方程式を用いてゼーベック係数を計算し、SrTiO3よりも高いゼーベック係数を理論予測した。 強誘電界面の課題については、イタリアの理論グループと綿密な共同研究を行い、ある特定の酸化物を組み合わせたヘテロ界面でトポロジカル相およびスピン・バレー結合を示すことを明らかにした。さらに、ワニエ関数を用いたBerry曲率の計算によりトポロジカル絶縁体特性の評価を可能にした。 以上2点において、関連物質の電子状態計算法に習熟し、次年度の成果が期待できる研究発展が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
H26-H28年度にわたって、スピン軌道相互作用・原子間混成効果・磁気秩序・強誘電性など複数の異なるメカニズムを介した特異なトポロジカル絶縁体の開発をめざしている。H26年度は、研究計画に従い、熱電物質に関する課題(1)を達成し、強誘電界面に関する課題(2)に取り掛かり、おおむね順調に研究を進展させた。 課題(1)では、新奇トポロジカル絶縁体の予測はできなかったものの、強誘電体BaTiO3を用いた酸化物の熱電性能の高効率化に成功し、予期せぬ成果を挙げた。BaTiO3では、強誘電構造歪みによりバンド構造に異方性が生じるため、逆格子空間でみるとkx方向とkz方向のバンド速度に大きな偏りが生まれる。その結果、x方向のゼーベック係数は低下し、一方でz方向のゼーベック係数は大きく増大する。このような強誘電歪みを用いた熱電性能の高効率化を示した研究は初めてのことであり、研究成果を日本物理学会論文誌に投稿したところ、受理・掲載された。[Journal of the Physical Society of Japan 84, 054701 (2015).] 課題(2)では、強誘電性を示すペロブスカイト酸化物BiAlO3に着目し、Alサイトの一部をIrで置換したヘテロ構造を理論設計したところ、この系が強いスピン・バレー結合を示すことを明らかにした。スピン・バレー結合とは、層状構造をもつMoS2などで実際に観測されているが、バンド構造がブリルアンゾーンの端でバレーをもちスピン偏極と結合している現象である。本研究のように、酸化物でのスピン・バレー結合は議論されたことはない。また、今回は強誘電歪みを制御することによりスピン偏極を反転することに成功し、強誘電とスピン・バレーの相関を新たに議論することができた。成果の一部は現在学術誌に投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、H27-28年度の2年間で、課題(2)の強誘電酸化物界面についての研究を続行しつつ、残された課題(3)および(4)を遂行する。 課題(3)はイリジウム酸化物の電子状態の研究であり、実験で報告されている結晶構造のモノクリニック歪みや複雑な磁性が電子状態にどのように影響を及ぼすかを調べる。特に、磁性をもつトポロジカル絶縁体の議論はあまりされていないため、新しい知見を得られることが期待される。計算にはVASPコード、HiLAPWコードを用いて行い、Na2IrO3に様々な構造歪みと磁性を与えて電子状態の変化を調べて、トポロジカル絶縁体としての性質に与える影響を明らかにする。 課題(4)はベリー曲率を用いたトポロジカル不変量の計算手法開発であり、将来的にトポロジカル絶縁体の性質を議論するために必要な研究である。現在、ワニエ関数を用いたベリー曲率の計算法を習得しつつある状況で、課題の遂行は長期に渡ることが予想される。今後、ドイツ・ユーリッヒ研究所の理論グループを訪問し、計算手法について習得・議論することにより打開案を探る。 また、上記の課題(2)を推進する上で、強誘電ヘテロ界面におけるスピン・バレー結合やラシュバ分裂について興味深い物理が明らかになってきたため、酸化物のスピン分裂を調べる研究を推進する。過去の研究では、スピン分裂に関する物性は主に半導体分野で行われており、酸化物ではあまり研究されていなかった。特に、反強磁性酸化物の電子状態におけるスピン分裂は、磁性とスピンとの相関を調べる上で非常に重要な問題となるため、本研究課題の枠組みの中で取り組んでいきたい。
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Causes of Carryover |
今年度はイタリアの理論研究グループを2度訪問滞在し、配分された直接経費の96%を旅費として使用した。残金で書籍等を購入したが、結果、3万円前後の額が残った。物品を購入するには少額だったため、次年度に持ち越して利用する。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の予算と合わせて、旅費または物品費として使用する。
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Research Products
(2 results)