2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26800195
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
長尾 全寛 早稲田大学, 理工学術院, 助教 (80726662)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | スキルミオン / 透過型電子顕微鏡 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、ナノスケールの磁気スキルミオンが注目を集めている。スキルミオンを形成するB20型カイラル磁性体は、スピンを平行に揃えようとする強磁性相互作用とスピンを傾けようとするジャロシンスキー・守谷相互作用との競合により螺旋磁気構造を示す。この螺旋磁気相に弱い磁場を印加するとスキルミオンが形成される。スキルミオンは三角格子配列を示す。この状態はスキルミオン格子と呼ばれている。スキルミオンはトポロジカルな磁気構造を持つことに由来して超低密度電流で高速駆動させることができる。このような性質からスキルミオン1個を情報ビットとして利用した大容量・超高速・不揮発性・低消費電力のスキルミオン・メモリデバイス実現に向けた物性研究が世界中で行われ始めている。 スキルミオン格子は理論的には螺旋磁気構造を印加磁場に対して垂直面内で互いに120度の関係で重ね合わせたものとして表現されている。これはTriple-Qモデルと呼ばれており、スキルミオンのデバイス応用の上で重要な様々な励起状態が理論的に予測されている。しかし、これまでTriple-Qモデルの実験的証拠はこれまで報告されていない。つまり、スキルミオン格子と螺旋磁気構造との関係が明らかになっていない。 そこで、B20型カイラル磁性体FeGeを対象に、スキルミオン格子と螺旋磁気構造の関係を調べた。具体的には、スキルミオン相と螺旋磁気相の一次相転移を利用して磁場を除去後の螺旋磁気相中の準安定スキルミオンのローレンツ電子顕微鏡観察を行った。その結果、Triple-Qモデルの実証に成功した。またDouble-Q状態では一次元スキルミオン配列を示すことを明らかにした。さらに、ゼロ磁場下にも関わらず螺旋磁壁において自発的にスキルミオンが形成されることを明らかにした。これらの結果は、四つの学会・シンポジウムにおいて報告を行い、凝縮物理系の学会誌に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究の目的はB20型磁性体の元素置換効果によって螺旋磁気構造とスキルミオンの変化を調べ、その特性を明らかにすることであった。平成26年度にB20型カイラル磁性体FeGeのSi置換効果についてローレンツ電子顕微鏡を用いて調べたが、平成27年度はその際に合成したFeGeを用いてスキルミオン格子の理論モデルの正当性を評価するために螺旋磁気構造とスキルミオン格子の関係を調べた。その結果、理論モデルを実験的に実証すると共に新たなモデルも提唱することが出来た。この結果はスキルミオン・デバイスの実用化に向けた材料開発に重要な知見を与えるものである。さらに、ローレンツ電子顕微鏡は局所的な磁気構造の変化を直接観察できる利点があるため、温度変化による螺旋磁気相中のスキルミオンの個数の変化を調べたところ、ゼロ磁場にもかかわらず自発的なスキルミオンの形成を観測した。この結果はスキルミオンの安定性に関する新たな知見を与えるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究はB20型磁性体におけるスキルミオン格子モデルの実験的実証とスキルミオンの安定性について明らかにし、磁気メモリ応用に重要な知見を与えた。しかし、近年、磁気スキルミオンの磁気メモリ応用だけでなく、トポロジカルな磁気構造に由来する新たな物性が報告され始めており、スキルミオン材料は高機能性材料としての重要性も高まってきている。そこで、平成28年度はB20型磁性体を対象に物性の解明と新たな磁気構造の創製に向けた研究を行っていく予定である。スキルミオンは試料の形状に強く影響を受けることが知られており、理論的に新たなスキルミオンの形状や磁気構造が提唱されている。しかし、現在までに実験的証拠は得られていない。そこで今後、様々なナノ構造の試料を作製し、ローレンツ顕微鏡観察から物性解明及び新規磁気構造を探索し、磁気スキルミオン・高機能性デバイスの実用化に向けた研究を進める予定である。
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Causes of Carryover |
平成27年度は交付額のほぼ全額を使用したため研究を進めることが出来た。次年度使用額の55,302円が生じた理由は、名古屋大学へ異動することが12月末に決定し、予算執行期限間近に購入予定であった電子顕微鏡観察用の消耗品が異動予定先の名古屋大学に既にあることが判明したため購入を見送った。そのため使用しなかったというのが理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
使用額が55,302円と少額である。異動先の名古屋大学ではこれまで早稲田大学で使用可能であった周辺機器が不足しているためその物品に当てる予定である。
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