2016 Fiscal Year Research-status Report
バンド間相互作用がもたらすエキシトン凝縮と新たな超伝導の理論
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26800198
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
渡部 洋 早稲田大学, 高等研究所, 助教 (50571238)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 分子性結晶 / 超伝導 / ダイマー内電荷自由度 / 変分モンテカルロ法 / 電荷秩序 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、κ型構造を有する分子性結晶群で見られる超伝導・磁性・電荷秩序のメカニズムを明らかにすることを目標に研究を行った。この物質群は電子密度がn=3/4であり、典型的な強相関電子系物質の電子密度n=1/2とは異なるため、特に電荷の揺らぎに起因する興味深い物性が期待されるが、詳細は明らかになっていない。そこで本研究では、従来のダイマー近似で無視されてきた二量体(ダイマー)内での電荷自由度と、長距離クーロン相互作用を取り入れた拡張ハバード模型を用い、κ-(BEDT-TTF)2Xを記述するモデルを構築した。計算手法には変分モンテカルロ法を用い、基底状態の性質を詳細に調べた。 常圧超伝導物質X=Cu[N(CN)_{2}]Brに対応するパラメータを用いた結果、電子相関の度合いによって常磁性金属、反強磁性ダイマーモット絶縁体、反強磁性偏極電荷秩序、三倍周期電荷秩序、超伝導と様々な相が拮抗して現れることが分かった。超伝導秩序変数の対称性はextended-s+dx2-y2的であり、ダイマー近似を超えた弱結合的なアプローチと合致する。超伝導相関は電荷秩序状態に向かって増強される傾向を示し、電荷揺らぎとの関連を示唆する結果を得た。これは、典型的な強相関系超伝導である銅酸化物高温超伝導体とは異なる発現機構であり、従来の理解を超えた新たなメカニズムを明らかにしたと言える。実際、最新の実験結果は超伝導の対称性がextended-s+dx2-y2であることを示唆しており、本研究の結果とよく一致している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまで研究してきたバンド間相互作用とエキシトン凝縮の知識を元に、新たに分子性結晶を対象とした研究を計画したが、従来のものとは異なる超伝導機構を見出すことが出来たのは予想以上の成果であった。また、今まで指摘されてこなかった三倍周期電荷秩序を見出し、その付近での電荷揺らぎが超伝導を増強するというのも新たな提案であり、今後の強相関電子系超伝導の理解に大きく貢献できると期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
これまではκ型分子性結晶κ-(ET)2Xの相互作用の強さを変えた時に起こる超伝導の発現機構を議論してきたが、系に電子・ホールをドープした際の超伝導については実験・理論ともに詳細はほとんど分かっていない。そこで今後は、同様の計算手法を用いて電子密度をパラメータとして変化させた時の電子状態を詳細に調べ、超伝導を含めた新奇な量子状態を理論的に探索する予定である。既に予備的な計算は進行中であり、電子・ホール非対称性という興味深い結果が得られそうな段階にあるため、この方針で研究を進めていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
妻の妊娠に伴う体調不良の看病により、アメリカ物理学会(2017年3月)での講演を見送ったため、未使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記の講演内容は次年度の強相関電子系国際会議(SCES2017)で発表予定であり、未使用額はその際の必要経費(参加費、渡航費など)に充てる。
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Research Products
(9 results)
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[Journal Article] Three-dimensional electronic structures and the metal-insulator transition in Ruddlesden-Popper iridates2016
Author(s)
A. Yamasaki, H. Fujiwara, S. Tachibana, D. Iwasaki, Y. Higashino, C. Yoshimi, K. Nakagawa, Y. Nakatani, K. Yamagami, H. Aratani, O. Kirilmaz, M. Sing, R. Claessen, H. Watanabe, T. Shirakawa, S. Yunoki, A. Naitoh, K. Takase, J. Matsuno, H. Takagi, A. Sekiyama, and Y. Saitoh
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Journal Title
Physical Review B
Volume: 94
Pages: 115103-1, 10
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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