2015 Fiscal Year Research-status Report
粉粒体での相分離と対流のクロストーク:散逸粒子系の非平衡物理
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26800201
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
稲垣 紫緒 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (20452261)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 非平衡・非線形物理学 / 非平衡散逸系 / 粉粒体物理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
大きさや形の異なる複数の種類の粉粒体を容器に入れ、機械的刺激によって擾乱を与えた際に誘起される分離現象の時空間ダイナミクスについて、実験と理論の両面から研究を行った。粉粒体の分離現象は、粉粒体物理の分野でもっとも盛んに研究がおこなわれている系の一つである。水平に置いた円筒容器に大きさや形の異なる2種類の粒子を封入して回転させると、粒子が縞状のバンドを形成して分離する現象がよく知られている。 本年度我々は、直方体の容器に二種類の砂を入れ、水平方向に加振する実験を行った。この場合、円筒容器で見られたようなバンドを形成して、さらに結合していく単調緩和のダイナミクスや、バンドが定常的に湧き出すダイナミクスが観察された。これらのバンドのダイナミクスは、容器内の粉体層の深さや加振強度に依存していることが分かった。横加振によって、容器内上層部の粒子が流動化し、流動層が下の固化した層から受けるずり応力によってバンドの形成が誘起され、そのずり応力の大きさがダイナミクスを決めると考えられる。 また、動的安息角の回転速度依存性について測定を行った。従来はサイズ分離を起こす条件として、小さい粒子が大きい粒子より十分大きい動的安息角を持つように粒子を選ぶのが最も重要であると考えられていた。しかし、動的安息角は回転速度にも依存し、これまで動的安息角と回転速度に関する系統的な実験はほとんど行われていない。我々は回転速度を細かく変化させて調べることで、動的安息角の回転速度依存性とバンドが形成されるかどうかを系統的に検証した。その結果、ガーネットサンド(直径0.3mm)と珪砂(直径0.15mm)の場合に、回転速度によらず動的安息角にほとんど差がないにもかかわらず、明瞭なバンドがでることが分かった。今後は、バンドを形成する条件として動的安息角が及ぼす影響を再検討し、バンド形成の本質的な要因を追求していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究をさらに発展させ、直方体の容器を水平方向に加振し、粉体層の厚さと加振強度を系統的に変化させることで、流動層の厚さを系統的に制御し、縞状のバンドが形成されるダイナミクスについて調べた。流動層の厚さが薄いときには、初めにたくさんバンドが現れて、時間とともに結合してく単調緩和のダイナミクスが見られ、流動層の厚さが厚くなってくると、バンドが生成消滅するダイナミクスが現れることが分かった。バンドの形成に必要な要因は一定方向の斜面流ではなく、単に流動化しているだけで十分であることが分かった。 また、円筒容器を用いて、動的安息角と回転速度依存性を系統的に調べることで、サイズ分離した縞状のバンドが形成される物理的要因について、これまで広く信じられていた動的安息角の役割を検証した。バジルシードとポピーシードの組み合わせでは、平均粒径の小さいポピーシードの方が回転速度によらず常に動的安息角が大きいにもかかわらず、回転速度が低いときにはバンドが見られなくなることが分かった。また、ガーネットサンドと珪砂の場合には、回転速度によらず常に動的安息角にほとんど違いが見られなかったが、バンドは明瞭に表れることが分かった。動的安息角は、粉粒体の物理において分離現象における重要なパラメータとして、多くのモデルで用いられてきたが、実験によって系統的に確かめた研究はほとんどない。我々の研究で、動的安息角の回転速度依存性とバンド形成の有無について、十分強い相関がないことが明らかになった。 以上の実験結果より、流動層と動的安息角について、これまで広く信じられていたことを検証し、新たな知見を得ることができたことから、研究はおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
動的安息角と回転速度依存性の関係について、小さい粒子が大きい粒子より十分大きい動的安息角を持つように粒子を選ぶことが、バンド形成の条件として広く信じられてきた。我々の実験で、回転速度を系統的に変化させて、二種類の組み合わせで実験を行ったが、いずれもこの条件には当てはまらない結果となった。【現在までの進捗状況】にもあるように、バジルシードとポピーシードの組み合わせでは、平均粒径の小さいポピーシードの方が回転速度によらず常に動的安息角が大きいにもかかわらず、回転速度が低いときにはバンドが見られなくなることが分かった。また、ガーネットサンドと珪砂の組み合わせの場合には、回転速度によらず常に動的安息角にほとんど違いが見られなかったが、バンドは明瞭に表れることが分かった。この二つの組み合わせでは、粒子の比重差が小さい点が大きく異なる。粒子が変わるとダイナミクスががらりと変わってしまうが、これはサイズ分離現象のダイナミクスを決める要因が動的安息角のみで決まらないことを示唆している。今後は粒子の物性を系統的に変えて調べることで、サイズ分離現象を引き起こす本質的な要因を探求していく。
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