2015 Fiscal Year Research-status Report
細胞運動の数理モデルに向けた、アクティブマターの自発運動と変形の解明
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26800219
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
義永 那津人 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 助教 (90548835)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | アクティブマター / 生物物理 / 細胞運動 / ソフトマター / 非線形ダイナミックス / 非平衡物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、細胞の多自由度からなる構成要素を力学的な性質に注目して縮約することで、細胞運動や組織の動力学についての基礎的な数理モデルを構築することである。細胞骨格をモデル化するアクティブゲルの理論と、より大きなスケールでの細胞運動の最も単純化されたモデルとしての自己駆動される液滴とその変形との二つの異なるスケールの間をつなぐことによって、内部自由度を含んだ自己駆動粒子のモデルを構築することを目標としている。平成27年度は、細胞の内部自由度を取り入れた数理モデルの構築を計画していた。どの中でも特に、液晶の自由度を持った液滴の運動に注目して研究を行った。 フィラメントからなる細胞骨格を表現するために、液晶の自由度を持った液滴の数理モデルを構築し、その自発運動について解析した。ベクトル場の配向の不均一性によって生じる力学的ストレスは、細胞骨格による収縮力に対応している。このモデルを解析することによって、単純な並進運動のみならず、公転運動、自転運動、ジグザグ運動、さらにはランダム状の運動まで実現することが分かった。これは、液滴内部の液晶場が生成するトポロジカル欠陥と液滴の形の相関によって生じる。 また、化学反応で濃度場を生成・消費することによって自発運動する液滴のモデルについても、さらに詳細に研究を進めている。特に、モデルの数値解析と縮約した運動速度に対する常微分方程式との解との整合性について詳細に調べた。自発運動する液滴の間の相互作用について定量的に比較し、正面衝突については、濃度の重なりによる相互作用が流体相互作用より支配的であることが分かった。本モデルは単純ではあるが、少し拡張することによって油滴などを用いた実験に適応可能ではないかと実験的研究との共同研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
液晶を取り入れた液滴のモデルを用いることで、比較的シンプルなモデルでありながら、パラメーターを変化させていくことによって様々な運動モードの変化を実現することが分かってきている。特に、サイズを変化させることによって、従来からよく研究されている直線運動だけではなく、ジグザグ運動、回転運動、そして往復しながら一方向に進む運動やカオティックに運動する状態まで実現可能であることが明らかになった。これらの運動モード間の分岐やそれぞれのモードの詳細について解析を進めている最中である。 また、化学反応を用いた油滴の運動に対して、我々の理論的枠組みがどの程度適用できるのか、そして実験結果をより詳細に説明するためにどのような拡張が可能であるのかを解析している。 一つの液滴や粒子の運動だけではなく、自発運動する液滴間の相互作用についても階席を進め、理論的に導出した縮約方程式と元のモデルである非線形偏微分方程式との詳細な比較を行い、半定量的な一致を得ている。この結果は現在論文投稿中である。また、よりシンプルな内部構造を持つJanus粒子の相互作用と集団運動についてもブリストル大学のTanniemola Liverpool教授と協同研究を進め、全体で整列する集団状態が実現できる条件について明らかにしている。このテーマに関しては、現在論文投稿準備中である。 他の研究成果として、二次元での閉じ込められた自発運動粒子の運動について理論的に調べ、回転や振動運動、そして準周期運動についての結果は、論文としてまとめて現在Journal of Chemical Physics誌に掲載済みである。また、マランゴニ効果による流れ場の存在下における化学物質の実効的な拡散についての理論的研究も進め、現在論文投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、まず27年度に解析した液晶を含んだ液滴の数理モデルの自発運動の解析結果を論文としてまとめたい。特に、運動モードの分岐について整理していきたい。また、アクティブストレスによって運動するモデルとは対称的な、アクチンの重合によって運動するモデルについても解析を進めていく。このモデルに関しては27年度にアルゴンヌ研究所のIgor Aranson教授を訪問して議論を行っている。現状では、力学的な整合性について不明な部分があり、そこを解明することが重要であると考えている。それによって、本年度行った液晶液滴のモデルとの比較が可能になると考えられる。 さらに、本年度は、現実の細胞運動により近づくために細胞生物学の研究者との議論の機会を増やしていきたい。これまでに培ったネットワークから27年度に共同研究の可能性について議論を始めている。28年度の4月にオックスフォードに訪問して、アクチンとタンパク質との分子ダイナミックスから、細胞運動や力学までを含めた数理モデルの構築に向けて研究を進めていきたい。26、27年度に数値計算の手法を確立することができたので、解析的な計算が困難なモデルであっても、数値的な解析によって実験との定量的な比較を目指すことができるようになった。 また、細胞内の内部自由度に関して、タンパク質の時空間分布が創り出すパターンの数理モデルに関しても、再構成実験系との共同研究を開始している。実験で得られるパターンの再現はすでに得られており、パラメーターの依存性を解析することで実験との比較検討を行うことができると期待している。
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Causes of Carryover |
今年度内に導入した計算機の導入において、予想より低価格で同等の性能が得られることができたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
28年度の4月に予定しているヨーロッパで行う研究打ち合わせで、新たにオックスフォード大学への訪問が共同研究の可能性として追加されたので、前年度分をここで使用する。
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