2016 Fiscal Year Research-status Report
構造に基づく理論的手法による光合成蛋白質におけるプロトン移動機構の解明
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26800224
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
斉藤 圭亮 東京大学, 先端科学技術研究センター, 講師 (20514516)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 蛋白質構造 / プロトン移動 / 光合成 / 光化学系II / NMR化学シフト / 量子化学計算 / 酸解離定数pKa / 水分解反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,蛋白質内で起こるプロトン移動の機構を蛋白質構造に基づく理論計算によって解明するための手法を具体的に示し,実践することである.対象とする蛋白質として光合成光化学系II(PSII)を扱う.PSIIは光エネルギーによる水分解反応を触媒する蛋白質であり,反応に伴って活性部位から水由来のプロトンが放出され蛋白質外部へと運ばれる.このプロトン移動を調べる.プロトンが,反応におけるどのタイミングで,どこからどこへ,どのような時間スケールで移動するのかを明らかにする.同時に,その機能を実現するために蛋白質環境のどの部分がどのように重要なのかを特定する. 前年度までに,蛋白質内のプロトン移動の経路を明らかにする手法を確立し,PSII蛋白質に適用した.その結果,PSIIの水分解において4段階からなる水分解反応の第一段階目に,触媒部位(MnCaクラスター)の特定部位からプロトンが放出され,複数の水分子から構成されるプロトン移動経路を通って排出されるがわかった. 本年度は,これまでに明らかにしたプロトン移動経路をより詳細に調べるため,プロトン移動と密接に関係していて,かつ実験で観測することができる酸解離定数pKaに着目した.(1)量子的なエネルギー差と(2)プロトンのNMR化学シフトという2つの独立な量子化学計算からpKaの値を算出するための式をそれぞれ発見し,pKaの値を計算によって算出する方法を確立した.その方法をPSIIのプロトン移動経路を構成する水分子に適用し,水分子の性質の違いをpKaの観点から解析した.その結果,プロトン移動経路の入り口にある3つの水分子は互いに強く相互作用しており,触媒部位のプロトン放出の駆動力を遠くへ伝える媒体として働いていることがわかった.この強結合水分子グループがプロトンを効率的に輸送する助けになっていると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の結果さらなる知見が得られ,それらの成果を学術論文として発表できているため.
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Strategy for Future Research Activity |
4段階から成る水分解反応の分子機構のうち,第一段階目までは明らかになったので,第2段階以降を明らかにしたい.またPSIIだけでなく,他の蛋白質におけるプロトン移動経路についても同様な手法で解析し,それとPSIIとの比較を行うことで,プロトン移動経路の多様性と普遍性を洗い出したい.
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Causes of Carryover |
初年度,研究代表者に異動があり,研究場所を大阪から東京へ移転した影響により,予算の使用額が予定より少なかった.その減額分がそのまま繰り越されているため.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
最終年度なので,特に研究成果発表に重点的に予算を使用する(初年度の減額分の繰越額もそこに利用する)予定である.
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Research Products
(8 results)