2014 Fiscal Year Research-status Report
細胞運動のゆらぎから探るロバストな細胞情報処理機構
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26800226
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Research Institution | Nara Medical University |
Principal Investigator |
高木 拓明 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (10444514)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 細胞運動 / 時系列解析 / ランジュバン方程式 / 細胞性粘菌 / T細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、細胞の自発運動(外部刺激非存在下でのランダム運動)に着目し、重心の軌跡データの統計解析、及びそれに基づいた理論研究を実施することで、細胞の確率的な情報処理機構を解明することを目的としている。本年度は、細胞運動に関わるシグナル伝達分子の機能及び理論モデルとの関係性を探る為、細胞性粘菌において、運動やシグナル伝達に異常のある複数種の変異体細胞での自発運動解析を実施した。その結果、cGMP伝達阻害のある細胞では、野生型では見られなかった運動様式、即ち細胞前方で左右交互に歩を進めるような振動的な運動が現れ、その周期が細胞内cGMP濃度に依存して変化する可能性を見出した。そして、その運動様式は、筆者が野生型細胞の運動モデルとして用いて来たランジュバン型モデルに自然な拡張を施すことで再現される可能性も確認した。振動的な運動は、シグナル伝達分子の時空間動態と細胞運動との関連を検討する上でも示唆的な発見である。 また、細胞性粘菌で見出された結果が、他の細胞種の運動においても成り立つかどうかを検証することは、メカニズムの一般性を探る上で重要である。そこで、マウスのT細胞の自発運動に対し、細胞性粘菌の研究で開発した一連の解析手法の適用を試みた。その結果、T細胞の運動様式は、運動能が高い状態と低い状態、及びそれらの間を遷移する状態とに分類されることを見出した。そして運動能が高い状態は、細胞性粘菌の運動様式と複数の特徴を共有しており、同様のモデルで記述可能であることが支持された。さらに、T細胞の2次元運動だけでなく、生理的条件に近い3次元運動の計測データの解析、及び野生型の細胞に加えて、ミオシンII など特定の分子機能を薬剤で阻害した細胞運動の解析も進めた。それによって、細胞運動の生理的意義や分子機能の寄与についての定量的な評価が可能となった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究実施計画においては、以下の3つの項目を挙げていた。即ち、(i)細胞性粘菌における変異体の自発運動解析及び運動様式の整理、(ii)その結果と整合する細胞運動モデルの構築及び理論的解析、(iii)免疫細胞における自発運動の解析及び運動様式の整理である。そして現在までのところ、その全ての項目において研究が進展している。(i)では、野生型とは異なるような振動的な運動様式の出現を一連の統計解析によって確認し、(ii)では、野生型に適用して来たモデルの自然な拡張によって振動的な運動様式も再現可能であることを計算機シミュレーション及び理論解析で確認し、(iii)では、T細胞の運動には複数のタイプが混在していることを明らかにし、それぞれの運動様式を同定した。これらの知見は、細胞生物学的な一般性や細胞内分子動態との接点を深めることに寄与する。そうしたことから、研究計画はおおむね順等に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度に得られた結果を基にして、細胞性粘菌および免疫細胞での運動研究をより一層進める。実験結果とモデルの整合性をより定量的に検証すると共に、免疫細胞では2次元運動と3次元運動との関係性、及び細胞運動と分子機能との関係性についても明確な結論を得る。それによって、細胞の自発運動に共通する動態やメカニズムについての理解を深める。 さらに、細胞の走化性運動において自発運動の果たす生理機能的な意義について検証を開始する。走化性運動では、細胞は運動する中で外部の誘因物質の濃度変化を検知し、それに適応しながら自らの運動を整合的に変調させて行く。その整合性構築の機構において、自発運動の持つゆらぎがどのような機能的意義を持ちうるかを探る。細胞性粘菌を対象に、走化性に関わる細胞内情報分子の機能モジュールの動態、及びこれまで検証して来た細胞運動の動態、その双方を組み込んだモデルを構築し、シミュレーションを通じて上記の可能性について検証する。なお、得られた研究結果は適宜取りまとめ、学会発表や論文発表を行って行く予定である。
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Research Products
(3 results)