2015 Fiscal Year Research-status Report
初期値化した気候予測データを活用して地球温暖化傾向の十年規模変調を解き明かす
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26800253
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
望月 崇 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 気候変動リスク情報創生プロジェクトチーム, 主任研究員 (00450776)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 地球温暖化 / 気候予測 / データ同化 / 太平洋十年振動 / 大気海洋相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の特色は、全球平均地上気温があまり上昇しない「地球温暖化のhiatus(中断)」のプロセスについて、初期値化を施して作成した気候予測データを活用して、太平洋十年規模振動(PDO)をはじめとした主要な気候変動との結びつきに注目しながら明らかにすることである。昨年度の解析から指摘されるhiatusのプロセスに関する重要事項として、亜熱帯太平洋での海上風変動の重要性と、それに対する大西洋の気候変動からの寄与の可能性があげられる。 他大洋の気候変動からの寄与という観点では、インド洋の強い昇温が相対的に太平洋の昇温を抑えたのではないかという説もある。本年度は、昨年度に追加実施して準備していた数値実験データを詳細に解析して、インド洋の気候変動からの寄与の可能性を調べた。その結果、インド洋からも太平洋に対して十年規模の影響が確かに存在するというシグナルを取り出すことに成功した。特にhiatusにこだわらずとも、このシグナルの検出自体が気候変動研究として重要な成果であり、他課題での関連成果ともに学会や研究集会で成果公表し、査読付き論文として投稿した。一方、ここで議論したインド洋の変動は気候システムの内部変動というよりも主に外力応答として解釈され、時系列などに注目するとその影響はhiatusを直接的に説明するものではない。そのためhiatusに注目した場合には、大西洋の変動のほうが他大洋からの影響としての重要度は高いことがわかった。また、亜熱帯太平洋での海上風変動という観点からは、他大洋ではなく赤道太平洋の海洋変動からの影響も容易に想像されるので、昨年度に追加実施していた数値実験データの解析からその可能性を探った。しかし、そのような太平洋内での影響はここで注目する海上風変動に対しては必ずしも支配的とは言えず、これまでの大西洋での気候変動の重要性を間接的に支持する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題で研究期間内に明らかにしようとしているのは、hiatusに代表される地球温暖化傾向の変調プロセスと、PDOに代表されるような気候システム変動との結びつきである。研究開始時点に掴んでいたhiatusにまつわるプロセス解明の端緒になると期待できる特徴は、2000年代における赤道上の暖水の東方伝播停滞であった。 昨年度の解析では、この亜熱帯域の暖水偏差に対応するような海上風偏差が存在してその後の予測性能に影響することや、元をたどれば大西洋のゆったりとした変動も対応することを指摘した。観測データや他のモデリングデータなどもあわせて解析をおこなうと、因果関係の詳細はまだ明らかでないものの大西洋数十年規模振動(AMO)と呼ばれるような変動が、たいてい太平洋の低緯度域にPDOと似たような水温と海上風の偏差分布を伴っている。本年度の解析では、インド洋域の変動は太平洋域に確かに影響するものの、それとPDOやhiatusとの関連性は不明瞭であることがわかった。また、注目する海上風変動については赤道太平洋からの寄与も支配的とまでは言えなかった。こうしたこれまでの解析結果を統合的に解釈することによって本研究課題の研究ターゲットはかなり絞られ、特に大西洋域から影響を受ける海上風変動に関する物理プロセスの解明が、次年度に取り組むべき有効なステップであると期待される。そのための解析を実施するにあたり、当初利用を予定していた気候予測データだけではなく、本年度に解析を施したような追加の数値実験データも有用である。次年度での詳細な解析に活用できるよう、大西洋全般の変動やAMOの変動にまつわる大洋間の結びつきの理解を助けるような数値実験データの作成を完了した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、hiatusプロセスには太平洋低緯度の海上風変動の重要性が指摘されるとともに、それに対する大西洋域からの影響の可能性が大きく、インド洋や赤道太平洋からの影響は限定的であることがわかった。熱帯太平洋域における昇温の抑制に関して鍵となるような海上風変動も含めて、他海域の変動とどのように結びついているか、物理プロセスを明らかにすることを目指す。特に、大西洋域とは確かに強い結びつきがありそうなので、その物理プロセスがどこまで予測可能なのかも含めて、アンサンブルデータのばらつきから見積もられる不確実性も考慮しながら検証解析をおこなう。また、これがPDOとどのように結びつくのか(もしくは、結びつかないのか)ということにも注意を払う。これらの結果は学会や研究集会などで発表するとともに、投稿論文にまとめる。 なお、本研究課題では海洋観測を用いて初期値化した気候予測データを主要な解析対象としてきたが、海上風(大気)変動の重要性を鑑み、別の気候予測データセットを用いた予備的な解析を試みることによって、大気観測も同時に初期値化した気候予測データの有用性を検討した。この予備的な解析に用いた気候予測データセットはごく最近得られるようになってきたものであるが、しかし、エルニーニョ現象なども含めた不確実性評価においてデータ量が不足していることや、十年規模の気候変動に対する再現性の品質が未保証であることなど、少なくとも本研究課題での追加データとしてのメリットは見出し難かった。よって、当初予定していた気候予測データセットと本年度に解析してきたような追加の数値実験データを次年度の研究にも活用するのが効果的である。
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Causes of Carryover |
なかでも成果公表に関連した未使用額が大きいのは、これまで国内外での学会や国際的な研究集会を効率よく利用して研究成果を発表してきたためである。気候予測や気候変動プロセス全般を議論するような包括的な講演の一部として本研究課題の研究成果を発表することができたほか、旅費などが先方負担される招待講演の場や、旅費が不要な所属研究機関所在地での国際ワークショップの場を利用して発表することもできた。また、受理された投稿論文についてはまだ印刷中であり、その別刷りなどに関わる研究費使用は次年度になるため未使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
他海域からの影響を考慮しながら当初の計画を超えて実施した追加の数値実験データセットも格納する必要性のため当初の計画よりも大容量で高価な大容量磁気記憶装置を購入したが、これに加えて、加工した数値実験データや対応する観測データを整備して解析研究を効率よく実施できるようにするため、大容量磁気記憶装置がさらに必要である。また、国際的な研究成果発表をおこなうために、学会や研究集会にかかわる旅費や参加費、および英文校閲や投稿料などの論文投稿にかかわる費用が必要である。こうした解析計算や研究成果発表の資料作成のために、既存ソフトウエアを最新に保つほか、利便性の高いソフトウエアを導入するための費用が必要である。
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Research Products
(8 results)