2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26800265
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中野 智之 京都大学, フィールド科学教育研究センター, 助教 (90377995)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 分子系統 / 生物地理 / 軟体動物 / カサガイ |
Outline of Annual Research Achievements |
ベッコウガサは、日本の温帯域から香港にかけて幅広く分布し、古来より殻表面が滑らかな個体をベッコウガサ、殻の表面に顆粒を持つ個体をアミガサと扱っていたが、これらが同種の生態型であるか別種であるか明らかにされてこなかった。さらに小笠原固有種で天然記念物に指定されているカサガイの幼貝は、ベッコウガサと非常に類似した殻形態を持っている。そこで本研究では、ベッコウガサの分布域全域からサンプルを採集し、近縁種であると考えられている小笠原固有種のカサガイと併せて分子系統解析をする事で、ベッコウガサ、アミガサ、カサガイの系統関係を明らかにするとともに、これらの種の境界線を明らかにする事と、それらの東南アジア全体での進化の過程を明らかにすることを目的とした。
本研究では日本、韓国、中国、台湾、香港の合計50地点で採集調査を行なった。その後、得られた140個体を解析の対象とし、ミトコンドリアDNAのCOIおよび核DNAのITS1, 2を用いた分子系統解析を行なうと共に、軟体部や殻構造、および歯舌の形態の比較と模式標本の精査を行った。その結果、放射肋の強弱は種内変異である事が明らかになった。また、ベッコウガサは遺伝的に3つの地理的なクレード、(1)北海道南部~九州北西部、四国西部、(2)九州西部~沖縄、(3)台湾、中国、香港に分けられる事が判明した。これらのクレードはおおむね腹足の色(黄色もしくは白色)と殻形態で判別がつき、遺伝的にも異なるので全て別種として考えられる事が分かった。また、これら3つのクレードは、小笠原固有のカサガイとも別種である事が判明した。すなわち、従来ベッコウガサと呼ばれていた種には、2種の未記載種が含まれている事が判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
分子系統解析および形態形質の精査により、従来ベッコウガサと呼ばれていた種には、2種の未記載種が含まれている事が判明した。あとは学名の整理が終われば、新種記載を行えるので、おおむね計画通りに進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
ベッコウガサについての学名の整理を完了し次第、新種記載を行う。
また、コガモガイ類を対象とした分子系統解析を行う。これまでの採集調査において、北海道から沖縄、台湾、中国、香港にかけて多数の標本をすでに採集済みであるので、DNAの抽出、ミトコンドリアDNAのCOI領域、核DNAのITS領域の解析を進め、コガモガイ類の正確な種同定および付着基質がおよぼす種分化への影響を明らかにする。また、コガモガイ類は幼貝の際に、他の巻貝類の殻の上に付着する生態を持っており、これらがどのような生態学的・適応的意義を持っているか調査するため、野外での生態観察を追加で行う。
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