2014 Fiscal Year Research-status Report
地球内核条件下における金属鉄の第一原理電子輸送特性シミュレーション
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26800273
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
出倉 春彦 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 助教 (90700146)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 地球中心核 / 金属の電気・熱伝導度 / 電子-フォノン相互作用 / 第一原理計算 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球核のダイナミクスを理解するためには,核に相当する圧力温度条件における内核物質(鉄を主成分とする合金と考えられている)の相平衡関係及び結晶構造に関する知見と共に,電気・熱伝導度に代表される電子輸送特性の知識が必要不可欠である。地球核の物性研究は,第一原理計算による理論研究が活発に行われている。しかしながら,状態方程式,比熱や熱膨張率といった熱特性の研究事例に比べて,上述した電子輸送特性に関する研究報告は極めて少ない。本研究課題では,密度汎関数理論(DFT)および密度汎関数摂動論(DFPT)に基づく第一原理計算によって,300万気圧,6000度という極限環境下における金属鉄の電子輸送特性の決定を目的としている。 電子輸送特性を決定するためには,超高圧下における鉄の電子構造,電子速度,電子比熱,そして電子-フォノン散乱強度の圧力依存性を精度良く決定する必要がある。そこで,本研究プロジェクトの初年度では,これら電子物性量の第一原理計算手法の開発を進めた。特に,DFPTに基づく電子-フォノン散乱強度の計算法およびフェルミ速度の高精度計算手法の開発を中心におこなった。また,次年度以降の研究を遂行するため,高圧下における結晶構造の構造最適化及び熱振動特性の計算をおこなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度では,金属の高温高圧下における第一原理電子輸送特性計算手法の開発を目的とした。下記の通り,開発はほぼ最終的な段階に到達しており,研究は順調に進展しているといえる。 (i) フェルミ面における電子特性である伝導電子密度及び伝導電子の速度を計算するためのプログラムを開発している。これらの物理量はフェルミ面のトポロジーに非常に敏感である。本研究では,有限フーリエ基底によるフェルミ面内挿法を用いている。これにより,任意形状のフェルミ面上で電子速度を計算することが可能となる。この開発は概ね順調に進んでおり,テスト計算の段階に入っている。(ii) 伝導電子のフォノンによる散乱強度の決定は,電子輸送特性を決定するうえで欠かせない。理論研究では,電子-フォノン相互作用の摂動論に基づく手法の有効性が広く知られている。本研究においてもその手法を導入し,初年度に圧力下における金属の電子-フォノン結合(EPC)計算法を確立した。EPCは多くのパラメータに依存するが,系統的な誤差評価法を確立した。また,Liなどの単純金属に関してEPCのテスト計算を行い,先行研究で報告されている理論計算値・実験測定値と良い一致を得た。この計算方法は任意の金属に対して適用できるため,次年度以降で金属鉄に対してこの手法を適用する。 また,地球内核に相当する圧力下で最安定構造と考えられているhcp構造について高圧力下における結晶構造をDFT計算によって決定した。また,各圧力下における結晶の熱振動特性を第一原理格子動力学計算法によって決定し,準調和近似法に基づく自由エネルギー計算と併せて高温高圧下における状態方程式を決定した。 以上のように,目標達成に対しておおむね順調に進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は,前年度に開発した電子輸送特性計算プログラムを用いて,地球内核に相当する330万気圧・5000度以上の超高圧高温条件下における金属鉄の電子-フォノン相互作用計算およびフェルミ面における電子物性計算をおこない,電気・熱伝導度を決定する。また,hcp構造のみならず,その他種々の構造を仮定し,各構造間による伝導度の大小関係を明らかにする。次いで,実験では到達困難なスーパーアース深部に相当する圧力(1000万気圧以上)にまで計算条件を拡張し,極高圧条件下における鉄の電子輸送特性の決定にも挑戦する。また,高温下では,電子-フォノンの高次散乱の影響が避けられない可能性がある。温度に依存した電子-電子散乱が無視できないことも最近指摘されている。これらの散乱機構が電気・熱抵抗に及ぼす効果を慎重に検討し,研究手法を改良することも視野に入れている。
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