2015 Fiscal Year Research-status Report
アキラル化合物の結晶および表面キラリティーにより不斉誘導される不斉自己触媒反応
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26810026
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
松本 有正 東京理科大学, 理学部, 講師 (20633407)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 有機化学 / 結晶構造 / 不斉合成 / キラリティー / 不斉自己触媒反応 / 不斉の起源 / 有機結晶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,これまでキラルな分子を触媒として用いるなど,分子キラリティーを用いて反応の選択性を制御する物が中心であった不斉反応に対し,結晶構造のキラリティーや表面構造のキラリティーといった分子配列が作り出すキラリティーを利用することで,分子不斉のない環境から不斉合成を達成することを目的としている。分子不斉のない環境から不斉合成を達成することは,有機合成上,非常に魅力的で革新的な合成手法となることに加えて,科学の未解決の課題である生命のホモキラリティーの起源を探る上でも重要な意味を持つ研究テーマである。 これまで本研究では,不斉自己触反応の高い不斉増幅力を利用することで,アキラルな化合物が形成するキラル結晶やアキラル結晶のエナンチオトピック表面と言ったアキラルな分子が作るキラルな構造から分子の不斉を発生させることに成功している。 具体的には,アキラルな有機化合物が形成するキラル結晶としてエチレンジアミン硫酸塩やベンゾフェノン誘導体類のキラル結晶化および不斉自己触媒反応における不斉誘導に成功している。また無機化合物としてはレトゲル石(硫酸ニッケル6水和物)のキラル結晶による不斉誘導に成功している。 さらに本研究を通して,結晶の相転移によるアキラル結晶からのキラリティーの発現や,アキラルなベンゾフェノンのキラル結晶構造と分光学的なキラル物性の相関を明らかにするなど結晶構造のキラリティーに関する新たな知見を得ることにも成功している。 以上本研究は結晶および表面のキラリティーの新現象を見出すことに成功している。これらの成果は学術論文に加えて国際学会での招待講演でも発表しており国際的にも高い評価を受けている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的はキラル結晶といった結晶構造のキラリティーやエナンチオトピック面といった表面配列のキラリティーを用いて分子不斉のない場から分子不斉のキラリティーの発現を目指す物である。 アキラルな化合物が形成するキラル結晶を用いた分子不斉の発現として,レトゲル石として知られる硫酸ニッケル六水和物のキラルな結晶が不斉自己触媒反応の不斉開始剤として働くことを見出している。またアキラルな有機化合物であるエチレンジアミンの硫酸塩が形成するキラル結晶による分子不斉誘起に成功したほか,種々のアキラルな有機化合物および無機化合物のキラル結晶を得ることに成功している。 またアキラルな有機化合物であるベンゾフェノンはキラル結晶を形成するが,その結晶構造とキラル物性との相関はこれまではっきりと決定されていなかった。ベンゾフェノンのキラル結晶の絶対構造を単結晶X線回折の異常分散を利用して決定し,その結晶の円二色性スペクトルを測定することで,構造とキラル物性の関係を明らかにしている。 さらにアキラルな化合物が形成するキラル結晶の研究の中で,結晶の相転移に伴ってアキラルな結晶構造からキラルな結晶構造へと転移を引き起こす物があることを見出している。これはこれまで殆ど例が知られていない現象で有り,キラリティーの観点からも有機結晶学の観点からも非常に興味深い現象である。 結晶のエナンチオトピック面を用いた不斉反応については現在までに数種類のアルデヒドのアキラル結晶がエナンチオトピック面を持つことを発見しており,そのエナンチオトピック面への亜鉛試薬の付加反応において,結晶の特定の面から試薬を作用させることで,得られる生成物の絶対配置の制御に成功している。 以上,本研究は今年度期待以上の進展を遂げており,引き続き研究を進めることで結晶や表面のキラリティーの知見およびその活用法を広める物となることが期待できる
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は先に述べたように順調に進行している。そこで今年度では前年度までの研究結果をさらに発展させると共に,より挑戦的な課題に取り組んでいく。 【アキラルな分子の選択的キラル結晶化を用いた不斉合成】 前年までにベンゾフェノンのキラル結晶の絶対構造とそのキラル物性の相関を取ることに成功している。さらに他の誘導体について構造とキラル物性の関係を調べることで。分光学的な測定で結晶の絶対構造を判別できるようにする。この絶対構造が明らかになった化合物に対して不斉自己触媒反応を行うことで,キラル結晶による不斉の発現を目指す。 また前年度までにアキラルな結晶からキラルな結晶への結晶多形転移を引き起こすアキラル化合物をいくつか見つけている。これら結晶多形転移によるキラリティーの発現についてさらに検討を重ね,結晶相転移によるキラリティーの制御を試みる。相転移を起こした結晶を用いて反応を行うことで,アキラル結晶からの分子不斉の発現を目指す。 【結晶の面を用いた不斉合成】 これまで数種類のアキラルなアルデヒドの結晶のエナンチオトピック面と,不斉自己触媒反応による不斉増幅を用いることで高い鏡像体過剰率のキラル化合物を得ることに成功している。今後は無機結晶や金属結晶表面のエナンチオトピック面への有機化合物の吸着や結晶成長を利用した不斉の発現について検討していく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は4,391円と少額で有り,研究遂行のための実験器具や試薬の購入を行うには不十分である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の実験における試薬,器具の購入費用に当てる。
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