2014 Fiscal Year Research-status Report
バルク・ナノ磁性の融合、及びそのメゾ領域における新規磁気物性の開拓
Project/Area Number |
26810028
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
影澤 幸一 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50709102)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | ナノ磁性体 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、柔軟な分子設計が可能である金属錯体を用いた希釈磁性体を作成することで、バルク磁性とナノ磁性の境界領域を明らかにし、尚且つバルク・ナノ磁性の融合を目指した。当初の目的では、二次元シート構造を有する[{Mn(salen)}4CnH2n(COO)2]を基本骨格とし、層間にアニオン性の常磁性金属錯体と非磁性金属錯体を挿入した [{Mn(salen)}4CnH2n(COO)2](MparaL2)と[{Mn(salen)}4CnH2n(COO)2](MdiaL2)を合成する予定であったが、実験を進めていく過程でアニオン性の金属錯体を層間に挿入することが困難であることが判明した。そこで本研究では、単分子磁石(single-molecule magnet; SMM)として振る舞うMnIII(salen)(salen2- = N,N’-(ethylene)bis(salicylideneiminato))錯体を配位受容型ユニット、[MII(pdc)2]2-(H2pdc = pyridine-2,6-dicarboxylic acid, MII = MnII, CoII, NiII, ZnII)を配位供与型ユニットとした二次元配位高分子[Mn(salen)]2[M(pdc)2](Mn2-M)の構築を試みた。単結晶X線構造解析からMn2-Mn、Mn2-Co、Mn2-Ni、Mn2-Znが二次元シート構造を形成し、さらに全ての化合物が同型構造を有していることが確認された。Mn2-Znにおける磁気測定の結果から、ゼロ磁場では交流磁化率で応答を示さないにもかかわらず、直流磁場の印加によって二種類の遅い磁気緩和を示すことが観測された。磁場印加によって複数の磁化緩和現象が観測されることは非常に稀であり、その発現機構は物性化学者にとって非常に興味深い。現在、Mn2-Znの結果については論文を作成中である。また、Mn2-Mn、Mn2-Co、Mn2-Niの磁気測定の結果から、MnIII(salen)と[MII(pdc)2]の間にはカルボン酸を通した弱い反強磁性的相互作用が存在し、これらが常磁性体として振る舞うことが確認された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の研究において、二次元配位高分子であるMn2-Mn、Mn2-Co、Mn2-Ni、Mn2-Znを新規に合成し、これらの化合物の結晶構造解析、元素分析、IR測定、熱重量分析、磁気物性測定を行い、基本的なデータを収集することに成功した。各種磁気測定から、[Mn(salen)]錯体を常磁性金属錯体によって架橋したMn2-Mn、Mn2-Co、Mn2-Niが反強磁性的相互作用を有する常磁性錯体として振る舞い、非磁性金属錯体によって架橋したMn2-Znが磁場印加によってSMM挙動を示すことを確認した。また、これら全ての化合物が同型構造を有することが明らかになったため、本年度において当初の予定通り、配位供与型ユニットである常磁性金属錯体と非磁性金属錯体の濃度比を変化させて希釈磁性体を合成することが可能となった。これにより、ナノ磁性体であるMn2-Znに常磁性金属錯体を徐々に置換していくことで、SMMと常磁性体の境界領域を探索することができると考えられる。Mn2-Znは直流磁場下においてのみ遅い磁化緩和現象を示し、さらに印加磁場を増大させていくことで複数の磁化緩和が現れてくる非常に特異的な挙動を示すことが確認されている。すなわち、Mn2-Znの非磁性金属錯体を常磁性金属錯体に置換していくことで、境界領域を明らかにするだけでなく、当初の計画では予想もできない結果が現れる可能性が期待できる。本来であれば常磁性体ではなく磁気相転移を示すバルク磁性体の開発が望ましい結果ではあったが、境界領域の探索、またこの領域における新規の磁気物性の開発という観点から、現在の研究は当初の目的通りに進展していると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り、Mn2-Mにおける常磁性金属錯体と非磁性金属錯体の濃度比を変化させた希釈磁性体を合成し、ICP発光分析、粉末X線回折測定によって濃度比の決定を行う。金属イオン濃度比の決定後に、各種濃度比の希釈磁性体の磁気物性測定を行い、境界領域における詳細な磁気物性を議論していく。また、昨年度において磁気相転移を伴うバルク磁性体の合成には至っていないことから、上記の実験と並行してナノ磁性体を構成要素とし、かつバルク磁性を示す金属錯体の合成を行っていく予定である。
|
Research Products
(10 results)